日本を代表するアーティスト・B’zの名曲「いつかのメリークリスマス」(1992年)には、主人公が椅子をプレゼントとして選んだ独特の描写が存在する。この歌詞の背景には、作詞者である稲葉浩志自身のリアルなエピソードが隠されていたことが、彼の著書『[完全予約受注生産] シアン 特装版』(2023年)にて語られている。
稲葉は椅子のイメージについて「椅子は、正直に言うと、実体験みたいなところもあるんですよね。わざわざ椅子を捻り出したわけじゃないので」、椅子を電車で運ぶシーンについて「まぁ、ある程度は(実体験)」、主人公がドアを開けると彼女が夕食を作っていてプレゼントを見せると喜んでいたシチュエーションについて「ある程度は実体験に基づいてはいますね」と、それぞれ明かした。(引用:『[完全予約受注生産] シアン 特装版』p.144)。一方で、「もちろん歌詞なので、事細かに全て克明にではないですけど」とも、断っている。
実物はもしかして…「折りたたみの椅子」?渋谷でのバイトを終えた主人公が電車で運び、誇らしげに恋人に見せる”下書き”が
インターネット上では毎年クリスマスシーズンになると、「いつかのメリークリスマス」の歌詞について「なぜプレゼントが椅子なのか」「椅子をどうやって電車で運んだのか」などの言説が飛び交っている。プレゼントが椅子である理由は上記インタビューでほぼ明確になったが、では主人公はどんな椅子を、どうやって運んだのだろうか。
稲葉の作詞時のイメージをより鮮明にするために、前述の著書にて公開された歌詞ノート(いわゆる歌詞の”下書き”)を紐解いてみる。鉛筆の斜線などで削られた各箇所には、「渋谷●(※不明)アルバイト」「バイトを終えて走って閉店まぎわの おりたたみ椅子を買いにいった」「仕事の後 閉店まぎわ 僕は走って」「折りたたみの椅子を買●(※不明)」「混んだ駅から電車に乗った」「君が欲しがった椅子を買った」「荷物をかかえ 電車の中 ただ幸せだった」「大きな袋に入ったプレゼント」などと綴られている(※上記は順不同)。
これらの記述を分析すると稲葉は、主人公が渋谷でのアルバイトを終えて、折りたたみの椅子を閉店まぎわの店に買いに行き、荷物(大きな袋に入ったプレゼント)を抱えて幸せな気分を感じ、それを恋人に誇らしげに渡すシーンをイメージしていたことが考えられる。これらのフレーズは作品として世に発表されている部分ではないが、作品の世界観の根幹を知る上では、大いに参考になるものだろう。
なお余談だが、B’zサイドも「いつかのメリークリスマス」における「椅子」の存在の大きさを認識しているのだろう。2021年12月リリースのミニ・アルバム『FRIENDS Ⅲ』初回限定盤DVDに収録されている『「いつかのメリークリスマス 〜FRIENDS III edit〜」MUSIC VIDEO』では、情景描写の中で、終始大量の木製の椅子が登場している。
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