B’zの2019年の全国ライブツアー『B’z LIVE-GYM 2019 -Whole Lotta NEW LOVE-』におけるヴォーカル・稲葉浩志さんの歌い方について、B’zのことを約15年間以上研究し続け、B’z最大級のファンブログサイト「B’z 超まとめ速報」を運営する筆者が、実際にライブに足を運び徹底的に分析させていただきました。今回はその結果を、レポートとして発表させていただきたいと思います。宜しければ是非ご覧ください。
- 『B’z LIVE-GYM 2019 -Whole Lotta NEW LOVE-』稲葉浩志さんの歌い方レポート
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- まとめ
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『B’z LIVE-GYM 2019 -Whole Lotta NEW LOVE-』稲葉浩志さんの歌い方レポート
それでは早速、筆者が約10回以上にわたってライブに足を運んで徹底的に分析した、『B’z LIVE-GYM 2019 -Whole Lotta NEW LOVE-』などにおける2019年の稲葉浩志さんの歌い方についてのレポートをご紹介させていただきます。あくまで個人的な見解であることをご了承いただきつつ、ライブDVD&Blu-rayなどとともにお楽しみいただければ幸いです。それではご覧ください。
※「楽曲解説」➡「稲葉浩志さんの楽曲の捉え方」➡「稲葉浩志さんの実際の歌い方」の順で各楽曲ごとに解説してまいります。「楽曲解説」は楽曲に関する一般的な解説。「稲葉浩志さんの楽曲の捉え方」はあくまで予想でありながら、稲葉さんがヴォーカリストとして楽曲をどのように捉えているかを表現したもの。「稲葉浩志さんの実際の歌い方」は、筆者が実際に数多くの公演を観てキャッチアップした情報をふまえて、稲葉さんのステージでの歌い方を記したもの。またレポート本文では敬称略とさせていただきます。予めご了承ください。
1.マイニューラブ
楽曲解説
ニューアルバム『NEW LOVE』のオープニングを飾るナンバー。サウンドにパーカッションが導入されており、バンドが醸し出す独特なグルーヴがなんとも心地良い。アルバムタイトル『NEW LOVE』と「マイニューラブ」はリンクしていないらしいが、リラックスできる曲調と歌詞は、アルバムのテイストを端的に表現しており、そのような意味でも価値ある一曲である、と感じる。そしてこの曲が、アルバムを引っ提げた同ツアーでも1曲目を飾ることになった。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
今回この楽曲が1曲目に配置されていることは、実はヴォーカリストとしてのライブ全体の”歌い運び”の観点からは、大変意義深い。
なぜならこの楽曲のメロディは、終始中音域で構成されているためだ。よってヴォーカルの視点から見て、ミドルボイス(裏声と地声)のかかり具合を調節し、また喉をウォームアップさせながら、心身ともに安定した状態でライブに臨むことができる。約3年前に行われたライブツアー『B’z LIVE-GYM 2017-2018 “LIVE DINOSAUR”』のオープニングナンバー「声明」も、この観点からまさに同様の性質を帯びた楽曲と言えるだろう。
また今回は、稲葉はレコーディング段階からライブを意識したフェイクを導入している。ステージでも様々な意味で、曲中に”ライブらしさ”を表現していくことが重要だと言えるだろう。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
ステージ下手から颯爽と登場した稲葉。片手を振り上げてオーディエンスの盛り上がりに応える。さぁ、いよいよ公演開始だ。しばしレポートにお付き合いいただきたいー
ツアー全体を通してこの楽曲は、非常に安定的に歌われていた印象だ。ほとんどの公演で冒頭から、稲葉はオーディエンスに対して安定的かつ好調なパフォーマンスを披露できていたと言えるだろう。
曲のメロディは前述の通り全体的に中音域で構成されており、稲葉ならではのミドルボイスがふんだんに使用されていた。またバンドのグルーヴが、生身さながらのものであったため、稲葉もステージ中央付近にて足でリズムを取りながら、演奏とともにビートに乗り切って歌っていた印象だ。
また鹿児島公演初日時点では、バンドメンバーがバックステージに慣れておらず、2日目以降に間奏部分で稲葉がバックステージ側を向いて手拍子を行う演出がマスト化されていった点(演出が修正されていった点)も、ライブの醍醐味を感じさせるポイントである。
そして実はこの楽曲で意外に難しいのが、前述の”フェイク”である。特にサビ前の部分で、CD音源と同様にライブでも「ヘイ!」とhiC#あたりの音域で叫んでいたのだが、これをコントロールするのは容易ではない。序盤の公演では、調子を見ながらオーディエンスにマイクを向けて、フェイクを回避していることもあった。ちなみに発声のコツは、筆者としては「斜め上後ろ方向に発声するイメージ」なのではないかと考えている。(発売される映像作品でも稲葉の動きを確認してほしい。)
なお最後の「マイニューラブ」と3回続けて歌うフレーズに関して、ツアー序盤の公演では必ず3回稲葉が歌っていたのに対し、中盤以降の公演では2回目の「マイニューラブ」だけオーディエンスに歌わせるようにしていた点も付記しておきたい。アルバムリリース時期から公演時期のインターバルによって、オーディエンスへの楽曲浸透具合を考慮した結果であろう。このあたりの些細な配慮にも余念がない。
2.MR. ARMOUR
楽曲解説
ニューアルバム『NEW LOVE』収録曲。2018年2月頃に一足早くレコーディングされていたが、稲葉の提案でメジャー調だったサビをマイナー調に変え、再度制作されている。コードが目まぐるしく変化する滑らかな展開に注目の一曲である。また歌詞はSNSで匿名により他者を攻撃する人物をイメージして書かれたが、テイストがシリアスになりすぎることを稲葉が危惧し、自らで男女間に置き換えられる表現に修正している。このあたりのバランス感覚はB’z特有であり、絶妙だ。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
メロディが中音域中心で構成されている楽曲であり、音域に関しては比較的歌いやすい。リズムも特に問題ないだろう。あとはセットリストの序盤からともすればシリアスになりかねない楽曲が配置されているため、パフォーマンスにおいてのオーディエンスへの見せ方は重要になってくるかもしれない。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
曲全体に関しては、現在の稲葉の得意音域とメロディがマッチしており、終始歌いやすかったのではないかと思われる。また1番のAメロ「私をいじって」というフレーズでステージ上手側で稲葉が衣装を”肩出し”するパフォーマンスが設けられており、男女間を匂わせる歌詞と演出がうまくマッチして大きな盛り上がりを作っていた点は大いに評価されるべきだろう。
そしてCD音源との歌い方の変更点も目立った。まずは1番Aメロ、「今日も」の箇所の頭がCDでは拍を食っていたのだが、ライブでは表拍にきっちり入るように修正(歌い出しと統一されたということなる)されていた。そしてラストサビ「優しさまでを隠して」の「し」の歌い回しがmid2D#からmid2Gへと変更されていた。
さらに、2番Aメロ終わりとBメロ頭の部分では、「誰よ」はhiB#のフェイクで歌うよう固定化。(移行した「Hey, Mr. Armour」の「Hey」もmid2G#あたりで高め)また、ツアー中盤の公演からは1番サビ終わり「いいじゃない」の語尾をmid2G#からmid2C#あたりまでしゃくり上げるアレンジ、さらに2番のサビ終わり「忘れちゃいなさい」の語尾を高く上げる(hiC#あたり)アレンジが施されている。
筆者が少々細かく取り上げ過ぎた感も否めないが、リリース直後の楽曲でも、滑らかな歌を聴かせるために稲葉はこのような微調整を常に行っている、ということがお分かりいただけるのではないだろうか。
なお、今回のツアーでは、8月頃の公演から楽曲の演奏テンポが変更された。千秋楽公演までかなり早いテンポで演奏されていたのが大変印象的であり、このことに気付いたファンの方々もいたのではないだろうか?あまりに演奏が早い公演では、さすがに稲葉も若干歌いにくい素振りを見せていた(また筆者の体感では演奏がBメロ付近でより早くなり、サビでペースダウンするような場面にも何度か遭遇した)が、ともあれ「マイニューラブ」に続き、この「MR. ARMOUR」もまた、生音を存分に堪能できるラインナップであったと言えるだろう。
3.WOLF
楽曲解説
ニューアルバム『NEW LOVE』収録曲。 フジテレビ系月曜9時ドラマ『SUITS/スーツ』に起用され話題となった。今回のツアーでも「B’zのLIVE-GYMにようこそ!」という”お決まりの挨拶”の直後に披露され、リードチューンの役割を担ったと言えるだろう。ホーンアレンジやジャジーなコード&ビート感が印象的な、大人の雰囲気を漂わせる一曲である。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
メロディの音域自体は中音域主体で、ほとんど問題にならないであろうと推測される。一方ビート感には繊細なニュアンスが要求され、歌い回しの節々に気を払う必要がありそうだ。具体的には”大人の楽曲”らしく、あえて”モタる”必要なども出てきそうな印象である。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
狼の牙や爪などを模したセットがステージに登場して披露された同曲。
稲葉はマイクスタンドを立てて楽曲の雰囲気を助長させるようなモーションも含めながらヴォーカリストとしての立ち振る舞いを全うし、また歌でも、熟練の技をオーディエンスに見せつけたと言えるのではないだろうか。
しかしほんのわずかではあるが、筆者は稲葉が歌に苦労している印象を受けた。
サビのメロディは概ねmid2C〜hiB♭までの音域に収まっており稲葉の得意領域ではあるが、メロディの飛び方、楽曲の”質感”が異質であり、歌を一筋縄ではいかせない。筆者から見るとCD音源と比較して声量を稼ぐのに一苦労していた印象だったが、ミドルボイスの繊細な声の当て方のニュアンスで、歌の出来栄えが大きく変わってくることを改めて実感させられた。稲葉はこの曲をかなり注意深く歌っていたのではないだろうか。
さて、今回この楽曲でファンから最も注視されたのは、ツアー前のBARKSでのインタビューで言及されてしまったこともあり、稲葉による「狼の鳴き声」の処理の仕方であろう。以下に詳細を解説する。
実は楽曲導入の際の鳴き声「アォン!」だけでも、演出に3パターンの変更が行われていた。(1:稲葉がいきなり「アォアオアオアオアオン!」と言う 2:稲葉が「アォン!」「アォン!」と観客を何回か煽ってから「アォアオアオアオアオン!」と言う。3:稲葉が「しーっ」と観客に静かになるように促してから「アォン!」「アォン!」と何回か煽り、「アォアオアオアオアオン!」と言う。)この変遷を見ただけでも、B’zが日々絶えずライブ演出に改善を重ねていることが如実にわかる。そしてさらに、曲中での鳴き声にも注目だ。今回のツアーでは一貫して、1番サビ終わりに「アォアオーン!」などと鳴き、2番サビ終わりに鳴くふりをし(観客に鳴かせる)、ラストサビ終わりでは観客を鳴かせた後に間をおいて自身が「アォアォアォアォアォアォアォーン!」などと鳴くパターンが採用された。稲葉なりに創意工夫した結果であろう。
なお歌い方のアレンジとしては、イントロのキメの後に「Yeah」などの合いの手を入れていたことは挙げておきたい。(ワードは公演ごとに変化しており、千秋楽公演などでは「A-ha」というフレーズが飛び出した)そして大人な雰囲気の楽曲であるが故に、イントロ以外でも様々なフェイクが繰り出されている。また、サビの「like a ローラーコースター」の「like」の長さを、CD音源よりほんの僅かに縮め、16分音符の連続のような扱いにしていたようにも感じられた。僅かなニュアンスだが、繊細なタッチの楽曲である故に、稲葉自身の中であらゆる試行錯誤が行われたのではないかと推測する。
4.俺よカルマを生きろ
楽曲解説
ニューアルバム『NEW LOVE』収録曲。ロック調の重厚なリフが印象的な楽曲である。なお歌詞は、稲葉が「切られ与三」 という歌舞伎にインスパイアされて制作されている。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
メロディの音域は低・中音域を中心に構成されているものの、要所でメロディが高く跳ね、ラストサビでは転調してキーが高くなる。故に決して容易には歌えない歌だ。そして何より歌詞の世界観が色濃いため、歌の表現に関して気を配る必要がありそうだ。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
演出も相まって、同曲のイメージを存分に活かしたパフォーマンスをオーディエンスに見せることに成功していたと感じる。サビ終わりの「もう戻るもんか」というフレーズではステージからマイクスタンドを投げ落とす演出が行われた。この演出により稲葉はマイクスタンドを持ち花道を歩きながら歌唱することとなっている。なお1番と2番の間奏は、稲葉が花道を歩く分CD音源から2倍の長さになっている。
そして筆者が観察している限り、踏み込んだ表現をするならば、意外にもこの楽曲の歌い方が、後の公演全体の稲葉自身のパフォーマンスを左右したといってもいいほど、重要なカギを握っていたといっても過言ではないと思う。それはなぜなのか。
この楽曲のAメロ、Bメロが、低音域主体で構成されているためである。前3曲と比較して、この楽曲で公演中初めて、かなりの”我慢”が強いられるのだ。一応説明しておくと、稲葉のミドルボイスは高音域を力強く出すための発声法である故に、低音域のボリュームを稼ぐのが困難になりがちな傾向もある。よってこの場面でしっかり低音域まで拾いつつ、発声の”ギア比”をコントロールして歌い切れば、後々の”歌い運び”も容易になりやすいというわけだ。一方低音域を拾い切れないとなると、それがバランス保持への焦りに繋がり、大げさに言うと発声を狂わせかねないことになる。筆者が10公演以上見たところ、この楽曲でのパフォーマンスの出来栄えが全体のパフォーマンスの出来栄えとかなり比例していることを確認した。DVD&Blu-rayでも、この楽曲のAメロ、Bメロでのパフォーマンスを是非チェックしてほしい。
また各所のフェイクとしては、2番サビ終わりのギターソロ前に「Oh~yeah~」というシャウト(hiC~hiAなど)、ラストサビの「もう戻るもんか」の後に「Yeah!」(hiD#)というシャウトを入れていたことを付記すべきであろう。
5.トワニワカク
楽曲解説
ニューアルバム『NEW LOVE』収録曲。 ハードロック調のサウンドと、”若くありたい”という人類の根源的欲求が痛快に描かれた歌詞が実に印象的な楽曲である。ノンタイアップのアルバム収録曲でありながら、『SUMMER SONIC 2019』のステージでも演奏された。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
ハードロック調が終始続く楽曲。また、メロディの音域はそこまで高くない。故にともすればヴォーカルが単調になりがちなので、コーラスとともにフェイクなどを交え、楽曲を盛り上げていくテンションが必要と言えるだろう。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
ハードなバンドサウンドに乗りつつ、充実のパフォーマンスを披露していた印象だ。オーディエンスを盛り上げる要素も達成しており、要所要素に「Hey!」などの合いの手を入れたほか、2番Aメロ「堂々と刻んでいけばいいのにって」の後のコーラス中に、主にツアー前半の公演では「聞き飽きたんです、ほんとに」、主にツアー公演の後半では、「聞き飽きたんです、もう」などとぼやくパフォーマンスを見せた。
そしてツアー序盤の公演では、稲葉が楽曲中に”若者”であるモヒニ・デイ(Ba.)とサム・ポマンティ(Key.)に執拗に絡んでいたのが、ツアー中盤以降ほとんど絡まなくなったことが確認できた。おそらく傍から見て、若いメンバーと絡む演出が楽曲の色合いを過多なものにしていると判断されたためではないだろうか。ちなみにB’zのライブでは、ステージのポジショニングやカメラワークが決められた台本が予め用意されている。今回舞台監督のもとにパフォーマンスの変更が行われていたかどうかは定かではないが、B’zのライブ演出の緻密さは、このような様々な部分から感じられる。
6.今夜月の見える丘に
楽曲解説
2000年2月リリースのB’z 27枚目のシングル曲。B’zのライブでは約4年ぶりに演奏された。現時点でB’z最後のミリオンヒットシングルとなっており、TBS系ドラマ『Beautiful Life〜ふたりでいた日々〜』の主題歌として多くの人々から人気を集める一曲である。今回は「OCEAN」とともに日替わり曲として演奏された。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
久々の演奏となった同曲。中音域中心のミディアムバラード楽曲でありながら、メロディの関係上歌いやすいか歌いにくいかで言うならば、歌いにくい部類に属する楽曲だと言えるだろう。キーポイントは現在の歌い方とメロディをどう折衝させるかだ。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
稲葉はこの楽曲をコントロールすることに苦戦を強いられていたように感じられる(2010年の披露時、2013年の披露時と比較しても大まかな傾向は変わっていないが、今回苦戦している部分が顕著に見られた印象)その理由を以下に説明する。
敢えて言語化するならば、この楽曲のサビのトップの音がhiBであり、原曲ではここで強く張って発声しているのに対して、現在の稲葉の歌い方ではこの部分はあくまでマイルドなテイストでキープして発声する部分だからである。つまり従来はhiB、トップの部分で発声のエネルギーが(張ることで)消化されてきたが、現在の歌い方ではhiBをエネルギーが溜まったままの状態でキープすることになり、故に高等な発声技術が必要とされる、ということである。また聞こえ方としては、“篭っている”ような状態になると言えよう。しかし稲葉はその条件の中で、最適解を絶えず探していた。この努力の模様がDVD&Blu-rayにも収録されているのではないかと推測する。また新しいメンバーにより一新されたオケ(筆者の聴感では前メンバーのオケの方が歌いやすいように感じた)にもできるだけ順応するように努めていたと言えるだろう。
6.OCEAN
楽曲解説
2005年8月リリースのB’z 39枚目のシングル曲。フジテレビ系ドラマ『海猿 -UMIZARU EVOLUTION-』主題歌に起用されたこともあり、メガヒットを記録した楽曲でもある。今回のツアーでは2018年の「B’z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI-」ツアーから連続で演奏(ともに日替わりながら)されることとなった。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
こちらも中音域中心のミディアムバラードであるが、ライブでの演奏機会はさほど多くない。昨年披露されたため、基本的には前年の流れを引き継ぐ形の歌い方になるだろう。リリース時から元来歌いにくい楽曲であるが、注意深く歌っていきたい。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
基本的に前回のツアーの流れを汲んで、歌い切っていたと言えるだろう。
しかし筆者としては、この「OCEAN」についても稲葉が近年特に苦労しているのではないかと懸念している。以下にその詳細を述べよう。
この楽曲のメロディも、サビのトップの高さがhiBであり、故に「今夜月の見える丘に」と主な懸念点は同様だ。またとりわけこの楽曲ではメロディの譜割りが長く取ってある(ロングトーンが多い)ため、呼気を多く必要とするという側面も挙げられる。さらに具体的には2番前の間奏がないため、曲が進行するごとにブレスが苦しくなる懸念も孕んでおり、実は歌う難易度が高い楽曲なのである。稲葉はこの諸条件の中で、歌い方の答えを探さなければならなかった。故に、歌の中に篭った聞こえ方を伴ったり、サビの音程のキープに切迫感を伴ったりすることがあったと筆者は体感している。しかし彼は持ち前の高い技術で、なんとか歌唱をコントーラブルなものにしていた。この点は評価されるべきであろう。どんな状況下でも自分の歌を制御下に置けるというのも、稲葉のヴォーカリストとしての長所である。
なお最後に、ラストサビの「中でも~」という部分で新しいフェイク(hiA hiB hiB hiA~)が導入されていたこともまた述べておきたい。リリース後約14年経過した曲でも思い付いたフェイクを必要に合わせて採り入れていく姿勢は、稲葉浩志というヴォーカリストの持つストイックさ、誠実を如実に表していると言ってよい。
7.有頂天
楽曲解説
2015年1月リリースの51枚目のシングル曲。日本テレビ系ドラマ『学校のカイダン』の主題歌として起用された。前作から約3年のインターバルを経てリリースされたシングルであり、いわゆる「2番」のセクションがない楽曲構成は、”B’zとして(当時の)音楽シーンでどのようなことをやるべきか”を考えた結果導き出されたものであるという。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
リリース以来多くのライブで演奏されており、いわば”ライブ向き”ともいえる楽曲である。また稲葉自身歌い慣れた楽曲だと言えるだろう。しかし2015年のリリース直後から、ライブではCDとは多少異なる発声バランスで歌われてきたように感じられる。故に楽曲の持ち味を残しつつライブに最適な歌い方を追求することが肝要であると言えよう。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
今回のツアーでは、稲葉はステージ左右に設けられた階段に上って歌う演出、イントロで手拍子とともに歌う演出、「Yeah」の部分で手を口に当てて横を向き、背景のスクリーンと連動して見えるようにする演出を行った。
歌い方は、基本的には前回ツアーの流れを汲んでいたと言えるが、その傾向がより顕著になったという意味で”変化”が見られる。
全体的には、サビの「有頂天」のhiBの音でも確実に出せるような力の入れ方で歌われていたと言えよう。敢えて言うならば、発声の立体感(深み)を減らし、高音を安定的に出す歌い方だ。
実はこの歌い方によって変化が見られる意外な箇所がある。Bメロの「それとももう幸せなの」という部分だ。ここはhiC#がトップの音になるが、このフレーズにおける稲葉の歌声は、近年割れて聞こえる傾向にある。(おそらくDVD&Blu-rayでもその様子が確認できるのではないだろうか)これは予め用意していた裏声の成分が、高音のメロディが登場した際に引っかかってくるためである。
続いて各所について述べるが、冒頭Aメロ「半分以上無理矢理に」の語尾はあまり深追いしていなかった。(公演によってばらばらだったが手をぶらぶらとさせてビブラートをかけている公演もあった。一種の工夫である。)また、最後の「Yeah,never gonna run away」というシャウトについては、確実に仕留めていた。この点はさすがである。詳細は後述するが、シャウトを外さない、確実に仕留めることができる、というスキルは、ロックヴォーカリストとしての理想的なものだと思う。
8.ultra soul
楽曲解説
2001年3月リリースのB’z 31枚目のシングル曲。『世界水泳福岡2001』大会公式テーマソングなどで使用され話題を集め、リリースから時間経過を経て国民的人気曲へと成長した。今となってはB’zを代表する一曲でもある。今回のツアーでは新しいメンバーにより演奏され、モヒニ・デイ(Ba.)のベースソロパートなどが加わり鮮やかになった。ラストサビではツアー途中の公演からバンド全体でのキメのフレーズが追加されていたのも見逃せない。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
リリース以降ほぼ全てのツアーで演奏されており、圧倒的な演奏回数を誇る楽曲。よって歌い方はその都度変化を遂げてきたと言えよう。今回は昨年の歌い方の延長上になるだろうが、演奏メンバーが変わったためオケが一新している点に留意したい。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
前曲から間髪を入れずにイントロに入り、オーディエンスの盛り上がりを維持しつつフィニッシュを迎えた同楽曲。ライブの中の盛り上がりポイントを担っていたと見られるが、稲葉、そしてバンドメンバーのパフォーマンスによってしっかりとそれが成し遂げられていたと言えよう。
なお稲葉の歌い方には、昨年とほとんど変化は見られなかった。稲葉はこの定番曲を確実に歌いこなしていたと言えるのではないか。
なお今回のツアーでは楽曲の最後に「ウルトラソウル!」とhiC#あたりの高さで叫ぶことで、フィニッシュを迎えていた点が従来と異なるヴォーカルアレンジとして挙げられるだろう。
9.恋鴉
楽曲解説
ニューアルバム『NEW LOVE』収録曲。 ヘヴィなリフ、サウンドの中に歌謡調のメロディが含まれており、ある意味B’zらしい一曲であると言えるだろう。なお歌詞は、稲葉がイントロ、Aメロを聴いて鴉(からす)が鳴いている光景を思い浮かべたことから制作されている。またライブでは、2018年に行方不明状態から松本のもとに戻ってきた愛用のギター「ピンクのミュージックマン」が使用され演奏されている。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
Aメロはギターとユニゾンするため、しっかりと合わせていきたいところだ。またサビのメロディは、その動きによって声が薄くなりかねない懸念を孕んでおり、これをクリアしていきたい。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
声の厚みを稼ぐことに苦労していた公演も見られたが、稲葉は全体的に安定したパフォーマンスを見せていたと感じる。なお声の厚みを稼ぐことが大変だということの具体的な内容は、サビのトップの音がhiB(ラストサビはhiD)であり、この部分を安定的に発声することを念頭に置いた”発声ギア比”によって、全体の歌の響きが薄くなる、というイメージで説明するのが妥当だと考える。
続いて各所の解説に移ろう。2番Aメロ「あなたひとりしかいない事実」の「事実」は「じじつおお」と「う」と発音しないことが意識されていたように感じられる。これはCD音源と同様であり、稲葉のこだわりなのではないだろうか。
そして2番サビ「振り向いてくれ」の「くれ」はCD音源とは異なり、mid2G midE~と下げて処理していた。直後にあるギターの静かなフレーズを引き立たせる上、喉の負担が軽減できる素晴らしいアレンジだと感じる。
ラストサビ「魔法はもういらないよ」で最高音hiDが登場するが、ここで、マイルドに高音を発している稲葉の様子が確認できるのではないだろうか。今回のツアーは”マイルドな高音”がキーになっていると考えているので、是非チェックしてみてほしい。(以下にもこの要素は登場する)
9.Da La Da Da
楽曲解説
ニューアルバム『NEW LOVE』収録曲。 70年代のハードロックテイストが存分に盛り込まれた曲。松本は一般的なヴォーカリストが苦手とする同タイプの曲に取り組む稲葉に対しインタビューで感謝の意を表しており、またレコーディングに参加したブライアン・ティッシー(Dr.)のドラミングを評価している。なお間奏のストリングスアレンジは、最終的に松本自身で作ったものである。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
メロディはハードな楽曲のテイストに拠っており、またリズムは独特な箇所も見られるため、歌唱することはかなり高難易度だと言えるだろう。松本がインタビューで稲葉について改めて言及するのも無理はない。これは稲葉の感性によるところが多いため筆者が詳細を書くことは憚られるが、敢えて述べるなら、バンドのヘヴィなビートを意識しながらパワフルに発声していくことを心掛けたのではないだろうか。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
極めて高いクオリティのパフォーマンスを披露していたと言えるだろう。稲葉にしか歌えないテイストの楽曲を歌いこなす様は、圧巻だ。まさに唯一無二のスーパーロックヴォーカリストの姿、そのものである。リズムやピッチも安定しており、シャウトも効果的に採り入れていたと言えよう。では各所の解説に移る。
まずイントロでは、「Ah~」といったようにhiD#の高さでビブラートで唸るようなシャウトを複数公演で披露していた。(2018年ツアーでの「光芒」ラストサビ前のシャウトのイメージが近い、なお同シャウトは映像作品には収録なし)そしてサビ前の「そら限界あるでしょ」などのフレーズはCD音源より早めのタイミングで処理していた。(歌う中での安全性の確保か)これはかつてライブで披露された「DEEP KISS」のspoken箇所などでも確認できるパターンだ。
そしてツアー序盤の公演では、「いい顔してるのは」などのBメロ最後のフレーズの語尾を、mid2F#~~~~mid2G#と遅らせてしゃくるアレンジをしていたが、ツアー終盤ではCD通りの処理となっていた。(公演を実施する中でCD通り歌って問題ないと判断したのではないだろうか。またそもそも、同様に序盤の公演では稲葉はマイクスタンドに対してアキレス腱を伸ばすような重厚な姿勢で歌っていたが、終盤ではマイクスタンドを抱えて歌っており姿勢にも変化が見られている。稲葉も同曲に、多少の警戒心を抱いていたのではないだろうか)
またラストサビの「だからなんなの?」の「なんなの」は、一貫してhiC hiC hiCとCD音源より高く歌っていた。
10.ゴールデンルーキー
楽曲解説
ニューアルバム『NEW LOVE』収録曲。 若者に向けたメッセージが印象的な楽曲である。今回のツアーでは”ゴールデン”なミラーボールがステージに登場し、2番で松本と稲葉がバックステージに行き並んで演奏する演出が行われた。なお当ツアーの中盤以降の公演では、稲葉がMCでサム・ポマンティ(Key.)のことを”B’zのゴールデンルーキーみたいなもの”などと紹介する場面も見られた。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
今回のアルバムに収録されている楽曲のメロディのほとんどが中音域主体ではあるが、その中でもこの楽曲はメロディ音域がmid2A〜hiBあたりに集まっており、ミドルボイスの響かせ方が重要になってくる。またCメロでリズムが変わる点や、ラストサビでhiEの“半裏声シャウト”が登場する点にも留意したい。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
中音域主体のメロディをうまく歌いこなしていた印象だ。ともすれば聴感上フワフワとしかねないサビ部分も、うまく抑えつつ歌いこなしていたと言えるだろう。
また、最後の“半裏声シャウト”は意外と難しい。鋭くなく、かつ弱くもないこの声の成分は、思うに声帯閉鎖の機微を上手にコントロールしなければならないはずだ。概ねの公演では巧みな歌いこなしを見せていたが、この箇所の出来栄え次第では納得しかねない表情をしている稲葉を見ることもできた。この機微を感知しているその姿からも、稲葉が実に繊細な感覚を持ったヴォーカリストであることを痛感させられる。
11.Rain & Dream
楽曲解説
ニューアルバム『NEW LOVE』収録曲。 6分以上の大作バラードであり、アウトロのツインギターによる弾き合いにはAerosmithのジョー・ペリーが参加している。そもそも本作の歌詞は『FIFA ワールドカップ オフィシャル・コンサート』でAerosmithと共演した際にスティーヴン・タイラーから掛けられた言葉がきっかけで誕生しており、実に不思議な縁を感じさせるものである。また歌詞に出てくる「お前ときたら 浮かれやすいから この先せいぜい気をつけろ」という言葉は稲葉が実際に学生時代に教師からはなむけとして掛けられた言葉である。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
歌い出しは若干低いが、中音域主体のメロディで構成されており、サビのhiBあたりで高音を響かせることが肝要となる楽曲だと言える。またサビは小刻みなフレーズによる演奏になるためリズムに留意したい。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
現在の歌い方の枠組みの中で、高いクオリティのパフォーマンスを実現できていたと言えるだろう。
現在の歌い方の枠組みの中でというのは、この「Rain & Dream」という楽曲が稲葉の現在の歌い方を随所で体現している楽曲だからである。この曲では、声の深みというよりは、中高音域での声の円滑な発し方を優先した歌い方が用いられていると考えている。
この曲の場合はサビの「怖れはしない」などのhiB~hiB~hiB♭あたりを心地良く聴かせることが重要になってくると思われるが、稲葉は確かにそれをライブで実現できていた。そのため、「現在の歌い方の枠組みの中で、高いクオリティのパフォーマンスを実現できていた」という表現を行った次第である。詳細は記事最後に記載している歌い方の総評部分でまた改めて述べたいと思う。
なおラストの「Oh,yeah」というシャウトは、CD音源はhiB hiC#~hiD#と上がっているが、ライブではほとんどの公演でhiB hiC#~mid2G#~などと下げていたということを一応述べておく。
12.SICK
楽曲解説
ニューアルバム『NEW LOVE』収録曲。 モヒニ・デイのベースソロがフィーチャーされており、ツアーでもモヒニのベースソロから曲が始まり、さらに間奏で華麗なソロが披露されていた。なお余談だが今回のツアーでは中盤以降の公演からステージのスクリーン表示が、薬のような物が表示されるものからサイケデリックな模様が表示されるものに変更されている。(理由は不明)
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
ハネるようなビートが印象的な同曲。リズミカルに歌っていきたいところだ。また地味にブレスがきつい箇所が見られるため、配分を考えながら歌っていきたい。そして楽曲の終盤、CDにも収録されている「アキャキャキャシャウト」がヴォーカルの見せ場であることは、言うまでもないだろう。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
モヒニのベースソロ明けに、”小休憩”を挟んで歌うこととなった当楽曲。
筆者の体感ではかなり体力を使う楽曲であるように感じられるが、稲葉はこれを見事にエネルギッシュに歌い切っている印象だった。
サビ前などにはhiD#で突き抜けるような単発シャウトを入れることが多く、オーディエンスを盛り上げることに注力していた。
またラストサビの「こんな世界だけが私の全て」というフレーズでは、「全て」の拍を後ろにずらし、ブレスを確保することに成功していた。この手法は過去レポートでも紹介したように、近年各所で見られている。(アレンジによる盛り上げ効果とブレス確保効果の一石二鳥)
そして最後の「アキャキャキャシャウト」は大半の公演で見事に決めていた。「Don’t Leave Me」で披露するものよりも、どちらかというと静かにアタックしていくようなイメージで披露されていたのではないだろうか。
13.マジェスティック
楽曲解説
ニューアルバム『NEW LOVE』収録曲。 江崎グリコ「ポッキー」CM主題歌として書き下ろされ、約1年半以上にわたり同CMに起用されている。歌詞内容も、CM側からのリクエストを間接的に多く取り入れている。同曲は2018年9月に、ハワイで開催されたファンクラブイベント『B’z PARTY Presents B’z Pleasure in Hawaii』にて初めて披露された。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
バラード楽曲でありながら、サビのメロディは意外と高い。楽器の数が少ないので声を張る必要は少ないように感じられるが、いかんせんサビのメロディが高く難しいため、容易には決して歌えない楽曲だ。マイルドなミドルボイスを駆使しつつ、なんとかピッチをコントロールしていきたい。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
主に着座した状態で歌唱に挑んだ今回。
稲葉は非常に良好なパフォーマンスを披露していたと感じた。
前述のようにサビのフレーズは、意外にも難易度が高い。
しかしながら稲葉は、現在の歌い方のメリットを存分に活用して、まさに今だからこそ実現できる形で、歌い切っていたように思う。
トップのhiCの音をしっかりと出しつつ、その後サビの締めのメロディをノンビブラートで処理してピッチをコントロールするこの箇所は、想像以上に困難なボイスコントロールが行われているのだ。ミドルボイスの混ぜ方、ブレスの強さが要求されるものと思われる。
ちなみに2番サビの「まばゆい音色で」というフレーズでは、ツアー中盤以降の公演からhiA hiA hiA hiA hiA~hiB♭~hiA~hiG~というメロディの些細なアレンジが加えられていたことを付記しておく。
14.裸足の女神
楽曲解説
1993年6月リリースのB’z 13枚目のシングル曲。今回のツアーで披露された曲の中では最も過去にリリースされた曲となった。今回のバージョンでは、『SUMMER SONIC 2019』を意識してか、1,2番のアコースティックアレンジと、間奏からの通常アレンジの2パターンが同時に楽しめる内容になっている。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
音域的には全く問題のない、むしろ今の歌い方にはかなり適した楽曲である。(2018年のツアー公演でも不調時に真っ先に歌われ、後の復調への足掛かりとなったこともあった)よって「裸足の女神」はB’zの全楽曲の中で見ても、現在の稲葉浩志の歌い方に極めてマッチした楽曲である、と言えるだろう。
また今回の演奏は、2番まではアコースティックアレンジのため歌い方を大きく変える必要がある。スローテンポなので、具体的には一部のメロディの高さや拍をアレンジする必要性が出てくるだろう。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
歌のパフォーマンスは非常に良好だったと言えるのではないだろうか。
1,2番のアコースティックアレンジ部分では、稲葉の歌い方に従来との変化が加えられていた。まず2番のAメロ「知らず知らず優しさ求め 彷徨う」の部分では「彷徨う」のフレーズを3拍ほど後ろにずらしていた。また同フレーズを「さまよお」という具合に意識して発音していたように感じる。(蛇足だが井上陽水の「少年時代」も同様の発音処理をされている)また「情けないヤジばかり」の「り」の部分がhiAからhiF#に変更されていた。(スローバラードでここを上げたままにしておく方が不自然だろう)そしてさらに、Bメロの終わりでは、1小節ブレイクが設けられており、そこに「Uh〜」などのフェイクがmid2E〜mid2C# (mid2B) mid2C# mid2B~という高さで追加されていた。ラストサビ以降は従来通りの披露である。
稲葉としてはスタミナを温存しつつオーディエンスにしっかりと歌を届けられる充実したメニューだったのではないだろうか。また、モヒニ・デイら新しいメンバーによる美しいコーラスが、楽曲の中で素晴らしく映えていたことにも触れておきたい。
15.きみとなら
楽曲解説
テレビ朝日系 ドラマ「べしゃり暮らし」主題歌(2019年7月放送開始)。現在未発表曲となっている。7/18愛知公演より今回のツアーのセットリストに追加された。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
メロディの最低音はmid2A、最高音はhiBと、こちらも中音域ベースの楽曲。特にサビではmid2G#付近の発声が連続するため、マイルドにミドルボイスを使いこなしていくことが重要になるだろう。また新曲披露の場面となるためオーディエンスに認知してもらうことを考慮する必要性がありそうだ。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
途中からメニューに追加された楽曲でありながら、歌、そしてバンド全体としてのパフォーマンスも遜色なかったと感じられる。なお前曲から続けての演奏であり、また同曲初披露の場面だったため、稲葉はほとんどの公演で「新しい曲やります。『きみとなら』~。」というセリフをオーディエンスに放っていた。(近年公演中に楽曲名を言うようになったことは前回のレポートでも少し触れさせていただいた次第だ)また4つ打ちのビートの曲であるが、少し前のめりぎみに歌っているのが稲葉の癖を象徴しているようで大変印象的でもある。
16.RED
楽曲解説
2015年6月リリースのB’z 52枚目のシングル曲。元広島東洋カープ投手・黒田博樹氏の日本球界復帰にあたり、マツダスタジアムの登場曲として制作され話題となった。
なお今回のツアーの9/8の広島公演では、セットリストのパターンを変更して広島に馴染み深いこの曲が特別に披露されている。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
2015年、リリース直後のツアー以来に歌うこととなった楽曲。難易度は高めだが、現在の自身の歌唱法にはマッチしている楽曲だと言えるだろう。楽曲中ではブレスを確保しつつサビの最後「RED」までしっかりと歌い切ること、そして「I will fight with my back to the wall」というフレーズのシャウトをどう処理するかということが大きなカギになるものと思われる。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
この楽曲では稲葉は現在の歌唱法を最大限に活かし、高いパフォーマンスを発揮していたように思う。サビでの声の太さや伸びで、改めて高いヴォーカルのポテンシャルを見せつけた印象だ。
また今回の楽曲披露で印象的だったのは、「I will fight with my back to the wall」というシャウトだ。1回目のサビ後の同フレーズは3度下のmid2G#の音程に変更されていた。(これについては音域の問題ではなく、2回目のシャウトと差別化を図る狙いがあったのではないかと推測している)
そして2回目のラストのシャウトでは、2015年にはhiD#の高さで伸ばしていたのが、今回はhiF#あたりの高さになっていることが多かった。(hiD#付近の場合もあった)だがここでは高さはさほど問題ではなく、むしろ稲葉としては異例に、約2小節全部にわたってシャウトを伸ばしていたことが興味深い。裏声の成分を強く出して押しつぶしたようなニュアンスの声で、力いっぱい、目いっぱいの尺で発声していたと言えるだろう。このようなアティテュードでのシャウトは、稲葉の中では珍しいと考える。なおシャウトには、若干のエフェクトが掛けられていた。
ちなみにラストサビに向かう前に、4カウント(1小節分)のブランクが設けられていたのは、稲葉のブレス確保のためだと思われる。(原曲の尺ではラストサビでのブレスが困難)この類のアレンジは2018年のツアーで披露された「光芒」でも行われている。
実際の演奏でもラストサビでの歌唱には苦労していた印象だ。(「血の色」の尺を少し後ろにずらしてブレスを確保していた。)しかしこれは衰えなどではなく、そもそもの楽曲自体の構成に無理があるものと見て差し支えないだろう。
16.声明
楽曲解説
2017年6月リリースのB’z 53枚目のシングル曲。今回「Still Alive」とともに、両A面シングルが披露されることになった。「UCC BLACK無糖」TVCMソングとして書き下ろされ、タイアップの関係で“限界なんて、ない”をコンセプトに歌詞が制作されている。なお「B’z LIVE-GYM 2017-2018 “LIVE DINOSAUR”」では稲葉が国家の首脳のような恰好をして演説台で歌う演出が施され、まさに「声明」とリンクしたパフォーマンスが注目を集めた。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
全体的にメロディが中音域で構成されており、ヴォーカルにとっては歌いやすい。またマイニューラブと同様にパーカッションが導入されており、楽曲のグルーヴ感を大切にして歌いたいところである。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
今回もなんと「B’z LIVE-GYM 2017-2018 “LIVE DINOSAUR”」と同様にステージに演説台が設けられ、稲葉がティアドロップ型のサングラスを着用して歌唱する演出が施された。そのため2番付近までステージ中央後方で直立しての歌唱となったが、このパフォーマンスは非常に歌いやすいものだと言えるだろう。
またラストのサビでは地面に膝をつけて状態をのけぞらせて歌っていたのも注目である。このような姿勢の調整で、歌唱効率は大きく高まる。
17.イチブトゼンブ
楽曲解説
2009年8月リリースのB’z 46枚目のシングル曲。フジテレビ系月曜9時ドラマ『ブザー・ビート〜崖っぷちのヒーロー〜』の主題歌として書き下ろされ、着うた、着うたフル合計で222万ダウンロードを記録するなどビッグセールスを記録した。リリース以降のB’zのライブツアーではほぼ欠かさず演奏されている”ライブ定番曲”でもある。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
リリース以来ほぼ毎回のライブツアーで歌い続けており、まさに歌い慣れた一曲であると言えよう。しかし前回のレポートでもご紹介したように、また稲葉自身がインタビューで語っているように、この「イチブトゼンブ」という楽曲はどうも歌いにくい。昨年のツアーでは喉の不調でメニューから削除されたことさえある。よってできるだけ喉に負担をかけずに、安定的に歌い切っていきたいところだ。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
今年のツアーでは、問題なく歌い切っていた印象だ。歌い方は、2018年時とほとんど変わっていないものの若干のマイルドさを伴っているとも言える。またラストサビの「それだけでいいのに」の語尾では、これまでに披露していたmid2G~hiA~hiB~hiA~mid2G~mid2E~などの華美なフェイクはしなくなった印象を受けた。ともあれ筆者は、現在の歌い方を継続していくとしたら今後「イチブトゼンブ」の負担はさほど問題にならないのではないかと考えている。
なお、2番サビ終わりにはほとんどの公演で「Guitar!」という合いの手を入れていた。
18.Still Alive
楽曲解説
2017年6月リリースのB’z 53枚目のシングル曲。TBS系ドラマ『A LIFE〜愛しき人〜』主題歌として書き下ろされた。そして今回日替わり曲「声明」とともに、両A面シングルが披露されることになった。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
2017年-2018年のツアー以来歌うこととなった楽曲。ライブでのノリの良さが当人たちにも実感されている楽曲であり、今後も披露の機会が多く設けられるのではないだろうか。この楽曲のメロディもまた中音域ベースで作られており、稲葉にとって比較的歌いやすいものだ。しっかりとミドルボイスを当てていけば問題なく歌えるだろう。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
そつなく歌いこなすことができていたように感じる。
しかし実はこの「Still Alive」にも、リリースからわずか2年で稲葉の歌い方に変化が起こっていた。
例えば、サビの「僕が掴もう〜」というフレーズは2017年披露時は必ずmid2F#~mid2G midF# mid2E~というフェイクで伸ばしていたが、今回は「yeah」などを付けるに留め、mid2F#~で止めて深追いしないようにしていた。また「何一つ終わりじゃない」というフレーズでは、トップのhiBの箇所での聴感が明らかに変わっていた。(敢えて表現するなら、「厚みのある鋭さ」から「潰れたようなキンキンとした感じ」への変化である)このどちらの理由も、発声比率が変化したことにある。基本的にはトップのhiB(瞬間最高音はhiD)を鋭く瞬発的に発声するか、マイルドにキープしながら発声するかのスタンスの違いであると言えよう。ディティールに関する表現をしてしまい恐縮だったが、その中でも今回の楽曲披露において稲葉が、観客のボルテージを最高潮に持っていく、圧倒的なパフォーマンスを見せていたということは間違いない。
なおちなみに、1番終了後の間奏では「Hey!」などというhiF#の単発シャウトが1箇所マストで入れられており、そこにエフェクトが掛けられて1小節ごとにリピートさせられていたことを付記しておく。
19.デウス
楽曲解説
ニューアルバム『NEW LOVE』収録曲。 スズキ「エスクード」TVCMソングとして起用。
タイトルはラテン語で神を意味するもので、稲葉曰く単純に響きが好きであり、馴染みがなく逆に神々しく感じられるため(歌詞にも「神様」が登場する)採用されたという。歌詞には、稲葉の2018年の体験が反映されているように感じられる。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
メロディは中音域主体で構成されているが、音の飛び方の関係で響かせにくい印象の楽曲である。歌い出しは低めから入るが、ボリュームを担保しつつサビまで線が細くならないように歌いたい。また「Yes,I’m ready」というフレーズがあるため、その前後でオーディエンスへの呼び掛けを考えても良さそうだ。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
声の厚みを担保するのは難しいと思われるメロディの楽曲でありながら、稲葉は最大限のパフォーマンスを実践していたように感じられる。サビのメロディはmid2E~hiBあたりの高さが中心であり、この付近の中音域をマイルドなテイストで歌うことから、ライブではオケにかき消され、声が聞こえにくくなってしまうことも想定されるが、稲葉は絶妙な発声バランスで歌い切っていた。
またライブ終盤の曲として配置されていることから、オーディエンスを盛り上げることも重要であり、1番サビあたりからステージの花道を歩きながらの歌唱となったほか、サビ前などの箇所には「Hey!」などの軽い合いの手が入れられていた。また1番の「Yes,I’m ready」というフレーズの後には、ツアー終盤あたりの公演から「Are you ready?」というフレーズが付け加えられ、さらに千秋楽公演では「Are you ready,Fukuoka?」というフレーズが発されていたと記憶している。
2番サビ終わりの間奏部分で、稲葉はブルースハープをすぐさま弾き(2番サビから左手に持っている様子が確認された)、その結果「もっともっともっと」というフレーズを発さなかった。(なお楽曲最後の「もっともっともっと」は歌っている。)
なお9月の公演あたりからは、2番Aメロの「本気の同情」などのフレーズがmid1G# mid2B mid2C# mid2E mid2C#~と統一されていたが、これには特に意味が感じられないため、稲葉が無意識に変更した点だと認識している。ツアーを追っていると当人たちの無意識下での変化に気付くこともあるが、それもまた面白い。
20.兵、走る
楽曲解説
ニューアルバム『NEW LOVE』収録曲。 リポビタンD ラグビー日本代表応援ソングとして起用され、世の中を席巻したことは多くの人の知るところであり、詳しくは当サイトの別頁に解説を譲りたいと思う。ちなみにCD音源にはB’z前サポートメンバーのシェーン・ガラース(Dr.)とバリー・スパークス(Ba.)が参加しており、今回のツアーでは楽曲初披露でありながら、新しいメンバーで演奏が行われたことになる。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
メロディは中音域主体で構成されているが、全体的に音の飛び方に癖があり歌うのが難しい。そのため知略的に歌う必要がありそうだ。
また楽曲のAメロとサビはドラムの「ドッタッドッタッ」というリズムが基本になり、ともすればハシりやすいので、2拍目と4拍目の「タッ」の拍に合わせるイメージで歌うとリズムの整合性が取りやすいのではないだろうか。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
全体を通して、まさに知略的に歌いこなされていた印象を受けた。
イントロの「エイエイオー」の2回目のフレーズ(その他間奏、アウトロも同様)はCD音源と異なり、hiB♭付近(mid2G#~hiCあたり、公演によって異なる)で発声されており、このオーディエンスを盛り上げるアレンジは、筆者の全く予想だにしないものだった。おそらく稲葉自身がリハーサルなどで原曲通りに歌ってみて、(キーが低くコーラスに埋もれて)物足りなさを感じたため生み出したものではないだろうか。
そして、筆者が一番注目したいのがまさに全体を通した歌い方である。
この楽曲は歌い出しがmid2Gから入り、いきなりhiB♭を何度も経過し、Bメロでmid2D#まで少々落ちた後に、サビ頭をmid2Cから入るといった変わった旋律をしている。(普通なら、A⇒B⇒サビとキーが上がっていくのがセオリーだが、乱高下するような印象)この一曲を通じて中音域と高音域を行き来する癖のあるメロディに対応するためには、恒常的に高音域を出せる状態をキープしつつ、中・低音域を拾っていくしかない。そこで稲葉は、鋭さや力強さというよりは、どちらかというと滑らかさを優先した歌い方を実践している、と言えるのである。DVD&Blu-rayでこの様子がご確認いただけるだろうか。
もしかしたら世の中には、歌のセオリーとして、サビ頭の「ゴールはここじゃない」に強いアクセントを置くべきだなどと主張する人もいるかもしれない。しかし稲葉は、歌を全体で俯瞰して捉え、どう歌うのが価値的であるのかを見抜く力を持っている。いわば“森を見てから木を見る“タイプである。そしてそれこそが、彼がヴォーカリストとして聡明であるということの最たる証明であることを、私はここで主張しておきたいのである。
21.juice
楽曲解説
2000年7月リリースのB’z 29作目のシングル曲。ブライアン・ティッシー(Dr.)が初めてB’zのレコーディングに参加した楽曲である。なおミュージックビデオは、札幌の駐車場でゲリラライブを行い制作された。なお今回、2018年のツアーから連続で演奏されている。
ちなみにライブでは間奏にコールアンドレスポンスを挟み込んで演奏されることが多い。今回もコールアンドレスポンスが披露され、公演ごとにいくつかのパターンのコールアンドレスポンスが行われたことが一部ファンの間でも話題となった。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
ライブでの定番曲。自身が歌い慣れているのは言うまでもない。2018年のツアーを踏襲する形で歌っていくことになるだろう。音域はイメージほどは高くないが、歌で楽曲のエネルギーを表現しなければならないため、まさに”振り絞る”パフォーマンスが求められると言えよう。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
アンコール時点の披露ながら、ほとんど疲れを見せることもなく、エネルギッシュに歌えていた印象だ。
Bメロの「はじめからわかっていた」をmid2E mid2G midE mid2G…と処理するなど、近年のライブでのメロディの最適化が継承されていたと言えるだろう。
そしてコールアンドレスポンスでは、稲葉の歌唱技術の高さが惜しげもなく披露された。
いくつかのパターンがあり詳細は割愛するが、主に披露されたパターンでは「C’mon C’mon…Now!」などのフレーズを用いたものが挙げられる。そして最後に「baby baby…」を連呼し、それを崩してロングトーンに持っていくという流れが主流だった。この部分では喉を柔軟に使って巧みな発声を実現しており、稲葉のヴォーカリストとしての異次元ぶりが改めて証明されたと言えるだろう。B’zのライブでの”C&R”は、オーディエンスにとって時に厳しく、つらく、険しいものだ。
22.さまよえる蒼い弾丸
楽曲解説
1998年4月にリリースされたB’z 24枚目のシングル曲。今回のツアーでは、「裸足の女神」とともに演奏された、数少ない90年代のリリース曲となった。なお今回のツアーではスケールアウトのような、不協和音を用いたギターアレンジが施されているほか、ベースのモヒニ・デイによるフィンガーピッキングが際立っており、新しいバンドメンバーでの演奏によって楽曲が生まれ変わった印象である。
稲葉浩志さんの楽曲の捉え方
ライブで幾度となく演奏されてきた当楽曲。アレンジや演奏メンバーは都度変化してきたものの、稲葉自身にとって”歌い慣れた”楽曲であるということ自体は間違いないだろう。しかしながら経年とともに自身の歌い方にも変化が見られてきた。この点をどう楽曲に反映させるかが課題となるだろう。
稲葉浩志さんの実際の歌い方
この楽曲も、基本的には終始特に問題なく歌い切っていた印象だ。しかしながら、注視したい点はある。前回の2017年披露時からも、稲葉の明確な発声の変化が窺えた。
例えばサビの部分を見てみよう。「飛び出しゃいい」「旅すりゃいい」「弾丸」の語尾は、稲葉はあまり長く伸ばしていない。なぜなら彼のミドルボイスの発声比率の変化で、この箇所は伸ばしにくくなっているからである。非常に繊細な表現で恐縮だが、2017年(フェス)演奏時が「サビ頭hiB♭に照準を定めて鋭くミックスさせている」印象ならば、2019年演奏時は「mid2Gあたりにマイルドな状態で力点を置いて、hiB♭も対象音域の範疇として処理している」というようなイメージである。2017年と2019年、B’zが連続して活動している僅かな期間にも稲葉の発声スタイルが変化しているということは、実に興味深い。今回の披露では、より負荷を少なくして歌うスタイルに傾倒していた、と言えるだろう。
なお、楽曲の最後の「弾丸」を伸ばす部分では、バンドの演奏が無音になるアレンジが行われ、稲葉自身も最低4小節分以上伸ばすロングトーンを披露。稲葉がこのhiB♭で伸ばすフレーズを、両膝を地面に付け、上体をのけぞらし、安定的に発声できるポジションを作ってから歌っていたことも注目ポイントだ。稲葉の発声とパフォーマンス中の姿勢には、密接な関係がある。そしてそこに、リバーブ、ディレイ系のヴォーカルエフェクトがかけられた。ちなみに近年のライブでは、「FIREBALL」「フキアレナサイ」などでもロングトーンとエフェクトのコラボレーションが見られている。裏声比率が高いロングトーンでも、シャウトとしてキラリと光らせる効果があると言えよう。
稲葉浩志(B’z)さんの2019年の歌い方総評【最新版】
ここまでご覧いただきありがとうございます。続いては、上記各楽曲のパフォーマンスを通して見てきた、稲葉浩志さんの2019年の歌い方についての総評を述べさせていただきたいと思います。
稲葉浩志(B’z)さんの最新の歌い方総評
筆者が今回、『B’z LIVE-GYM 2019 -Whole Lotta NEW LOVE-』や『SUMMER SONIC 2019』のステージを観て、稲葉浩志の歌い方について感じたことは、2017年、2018年と比較しても、2019年に明確な変化を遂げているということだ。今回総評を行うにあたって、この点を細部にわたってクリアにしておきたい。
前回のレポートで、2018年時点の稲葉浩志は、以前にも増して発声時に裏声成分を多く利用し、喉に負担のかからない歌い方を実践しているということをお伝えした。そして2019年も、この兆候は全く変わっていないと考える。しかしながら同じ方向性の中でも、この数年だけで稲葉の歌い方は確実に変化したと言えるだろう。以下に具体的な事象をまとめて列挙した。
- hiBなどの高音域では声を張らずにマイルドなミドルボイスを使う傾向が顕著化している
- 最新アルバム収録曲全般で高音域がマイルドに歌われている傾向が見られる。
- さらに「今夜月の見える丘に」「OCEAN」「さまよえる蒼い弾丸」などの過去リリース曲でも発声アプローチの変化が見られた。そして「有頂天」や「Still Alive」など直近の楽曲の発声比率にも変化があることは、ここ2,3年で稲葉の発声が変化していることを証明している。
- 上記歌い方により、楽曲全体を滑らかに、負担少なく歌うことが可能になった。
- 一方、低~中音域を伴う一部楽曲では発声の際の勢いなどを確保することが困難になった。
- 「有頂天」や「RED」のシャウト、「juice」のコールアンドレスポンスなどでは圧倒的な迫力・クオリティのハイトーンボイスを披露しており、自身の持ち場は決して外さないという点は以前と全く変わらない。これはまさに驚異的なことであり、稲葉浩志がスーパーロックヴォーカリストであることを示している証左であると言えよう。
1点目、2点目に関して、例えば、楽曲「Rain & Dream」を例に挙げてみる。サビの「~しない」「~じゃない」「~みせましょう」というフレーズは、hiB~hiB♭の高さで倍音を含ませて歌い切る部分なのだが、このhiBという高さでのロングトーンフレーズは、これまでならばもっと深みのある成分の声で発声することが多かった。今回の発声では、もちろん倍音成分などは聴き取れるが、深い部分での共鳴というよりは、少し浅い部分での響かせ具合となっていることがお分かりいただけないだろうか?(数値で証明できない点は残念であり、お詫びを申し上げたい)もちろん楽曲の持つ性質が稲葉の発声のテイストを導いているという可能性も否定できないが、そもそもB’zの楽曲は、作曲を担当する松本が、稲葉のその時点での音域の強みなどを活かして制作しており、また稲葉が自ら歌う歌詞を書いているため、(そもそもトップの音に「みせましょう」などというフレーズを用意している時点で音をマイルドに処理しようという意思を感じる。)楽曲の持つ性質自体がその当時の稲葉の発声の状態を表している、という見方もできると筆者は考えている。(=つまり結局は楽曲の性質に寄せて高音域がマイルドに歌われているという線は極めて薄い。)さらに加えて、3点目に挙げているように今回のライブパフォーマンスでも、過去リリースの曲を披露した際にこの傾向が一貫して見られていることから、稲葉が近年高音域をマイルドに歌う傾向があることはひとつの事実として語られても差し支えないだろうと考える。
つまり稲葉の歌い方は、この十数年来の「喉の負担を少なく高音域を発声する」という基本方針のもとに、ここ数年でさらにその内訳を変化させてきたということだ。そして稲葉は、そのことで生まれたメリットを最大限に活かし、またそのことで生まれたデメリットを最大限に補う努力をしていたと言えるだろう。
ともあれ、筆者が今回のレポートを通じて主張したいのは、稲葉浩志の歌声やパフォーマンスが衰えたとか、進化を遂げたとか、そういった類のことではない。万物は流転する。その中で稲葉は、延べ数十万人のオーディエンスを、現に歌声で納得させ続けているのである。このことだけは明確な事実だ。故に、稲葉自身の変化を、筆者はもはや「衰え」や「進化」などといった言葉では到底表現できない。ただ一つ言えること、それは、稲葉は”現在の最適解”を探す努力をし、それを見つけ、実践しているということだ。それは、私たちが想像するよりはるかに困難なことであり、また自身とひたすらに向き合うことが必要とされる実に孤独な営みであろう。なかんずくそれが実現できていることこそが、B’zというユニットが結成30年以上を経てなおここまで多くの人に支持されている所以であるということは、言うまでもない。
「稲葉浩志の歌はすごい」「稲葉浩志の歌は今日も絶好調だ」などと、我々が日ごろから口先で表現することは実にたやすい。しかしその裏側には、私たちが想像もつかないような次元での努力や研究が積み重ねられているのかもしれない-少なくとも私はそう思う。筆者が述べたいのはまさにこの部分であり、よって上記で考察した全ての要素を踏まえ、「稲葉浩志というヴォーカリストはすごい」ということを、ここで、改めて明確に主張しておきたいと思う。
皆様も、今回リリースされる映像作品DVD&Blu-ray『B’z LIVE-GYM 2019 -Whole Lotta NEW LOVE-』で、彼の偉大さを、その凄みを、じっくりと堪能してほしいと思う。筆者も改めて”追体験”するつもりだ。
まとめ
ここまでご覧いただきありがとうございます。B’zが2019年に行ったライブ『B’z LIVE-GYM 2019 -Whole Lotta NEW LOVE-』などでのパフォーマンスを通じて、稲葉浩志さんの歌い方を分析させていただきました。いかがでしたでしょうか?(上記レポートはあくまで筆者個人の見解であることをご了承いただければ幸いです。)
今回のレポートで私が主張したかったのは、稲葉浩志さんがステージングの裏で、私たちの想像を超えた次元の努力をなさっているのではないか、という点です。稲葉さんがあれほどまでに卓越した歌声を披露できている背景には、何も魔法などが用いられてるわけではありません。実際には稲葉さんの肺からが空気が送り込まれ、稲葉さんの声帯が振動し、その振動が稲葉さんの声道を通って、初めて私たちのもとに歌声として届けられています。そして、稲葉さんから発された歌の音程もまた、ヘルツで表すことのできる絶対的なものです。
もちろん発声学の分野は未解明の部分が多く、言説が多岐に分かれていて混沌としていることは事実です。しかし筆者は上記の事由から、稲葉浩志さんの歌で起こっている事象をもっと言語化できるのではないかと考えています。そして今回も、結果的にそれをある程度形にさせていただいた次第です。
「稲葉さんはストイック」「稲葉さんは努力家」という言説はよく目にしますが、「稲葉さんの歌に隠された事実」が語られているのを筆者はほとんど見たことがありません。まさにタネもシカケもない-”Ain’t No Magic”である稲葉浩志さんの歌、そしてB’zのパフォーマンスの一端を、今回のレポートで少しだけでも覗いていただけたなら幸いです。
以上、『B’z LIVE-GYM 2019 -Whole Lotta NEW LOVE-』などでの2019年の稲葉浩志さんの歌い方についてまとめさせていただきました。ご覧いただきありがとうございました。
written by はやみん(@Bz_hayamin )
コメント
ホントすばらしい記事です。いつもいつもありがとうございます。