こんにちは。管理人です。
前回LIVE DINOSAURツアーで稲葉さんの歌い方観察レポートを書かせていただいてから約1年。前回は沢山の方にご覧いただき誠にありがとうございました。
今回は、2018年の7月~9月にかけて、仙台、広島、横浜、福岡、名古屋、大阪、東京などで「B’z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI-」公演に全12回参加させていただきました。
「B’z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI-」で稲葉さんはどのようにして歌われていたのか、徹底的に分析させていただき、当時のメモを元に計50時間以上の時間をかけて各楽曲別に執筆させていただきました。以下個人的な見解ではございますが、宜しければ是非ご覧ください。
「B’z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI-」 での稲葉さんの歌い方
- 全体的な歌い方総評
- 「B’z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI-」楽曲別稲葉さんレポート
- 1. ultra soul
- 2. BLOWIN’
- 3. ミエナイチカラ~INVISIBLE ONE~
- 4. 裸足の女神
- 4. TIME
- 5. Wonderful Opportunity
- 5. love me, I love you
- 6. 光芒
- 7. 月光
- 7. もう一度キスしたかった
- 8. 恋心 (KOI-GOKORO)
- 9. OH! GIRL
- 10. イチブトゼンブ
- 11. ねがい
- 11. ZERO
- 12. ALONE
- 13. OCEAN
- 13. Calling【※映像作品視聴後、後記】
- 13. LOVE PHANTOM
- 14. HINOTORI
- 15. Real Thing Shakes(1コーラス)
- 16. juice
- 17. BAD COMMUNICATION
- 18. Pleasure 2018 -人生の快楽-
- 19. Brotherhood
- 20. ギリギリchop
- 20. 愛のバクダン
- 21. RUN
- HINOTORIツアーでの稲葉さんの歌い方まとめ
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全体的な歌い方総評
これから下記において、各楽曲の歌い方分析について解説させていただきますが、
まず今回のツアーでの全体的な歌い方について書かせていただきたいと思います。
今回のツアーの歌い方を一言で言い表すと、『稲葉さん史上最も喉に優しい歌い方』です。
セットリスト的に初期の曲が多く、全体を通して低中音域中心に組み立てられるという外的要因もありましたが、実際の歌い方単体で見て、裏声成分をたっぷり取り入れつつ、柔らかい発声を行うことで史上最も喉に優しい歌い方をしていたとはっきり言い切れると思います。
理由は、私は以下の通りだと考えております。
- 喉への負担を軽減することで、衰えるスピードを鈍化させたい
- 安定的な発声を行いたい(パフォーマンスを安定させたい)
- あらゆる楽曲へ対応したい(30年分の多様な楽曲に対応しなければならない)
まず、衰えるスピードを遅くする点ですが、以前稲葉さんはインタビューで、喉の衰えるスピードを遅くしたいという趣旨の発言を実際に何度かされていました。
喉への過度なダメージは、結果的に衰えを加速させてしまう可能性があるので、喉に優しい歌い方で衰えを防いでいるということは、一つ目に大きく言えるのではないでしょうか?
次に、安定的な発声についてですが、例えば(あくまで一例としてピックアップしただけですが)98年~01年頃を見ると、少々力で高音域を押すような発声をしていることが、他の時期に比べて多いように感じられます。
多少無理して発声すると、局所的にキーが高く出たりして、随所でロックという音楽ジャンルに即した、切迫感のあるパフォーマンスを見せられることもありますが、一方でコンディションが悪くなるリスクも高まります。
稲葉さんもヴォーカリストとしてキャリアを30年以上重ねていく中で、1回のパフォーマンスで最大瞬間風速を出すことよりも、すべてのパフォーマンスで安定的に高いクオリティの歌を届けることの方が重要だと思われているのではないでしょうか?
この点に関しては直近のインタビュー等で明確な発言をキャッチアップしているわけではありませんが、実際に可能性として挙げられると思います。
そして最後に、あらゆる楽曲への対応についてですが、B’zは1988年から精力的に楽曲制作を続けており、通算楽曲数もゆうに300は超えています。
そのため音域やリズム、ジャンルなどが全く異なる楽曲に対応しなければならず、稲葉さんも苦労されているところです。(こちらに関しては過去のインタビューで言及されており、稲葉さんなりに歌い方を工夫されているということでした)
これらの理由からか、稲葉さんは喉に優しい歌い方を心掛けられていると思われます。
また今回は特別に、体調不良が起きてしまったツアーでもありました。
お気づきの方も多いかと思いますが、稲葉さんはあらゆる発声方法にトライされていたと思います。特に9/21と9/22の公演ではそれがより顕著に感じられました。
そのような意味において、一方、今回は通常よりもより”工夫して歌われた”ツアーであったということもできるかもしれません。
今回の記事では、仙台公演から千秋楽までの参加した公演で稲葉さんがどのようにして歌われていたかを各楽曲別に書かせていただきました。
まずは楽曲の概要、次に稲葉さんがその楽曲についてどのように考え、向き合われているかについての考察、最後に実際に今回に稲葉さんが歌った歌い方の順で書かせていただきます。
どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
「B’z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI-」楽曲別稲葉さんレポート
1. ultra soul
概要
2001年にリリースされて以来、楽曲のインパクトとともにB’zの代表曲ともなりつつある楽曲。
LIVE-GYMでは08年のACTIONツアー以外ではすべて演奏され続けている。
今回は30周年の満を持して、1曲目のオープニングに演奏された。
稲葉さんの考え方
発売から演奏回数も圧倒的に多い楽曲。そのため、オケやアレンジも随時変わってきた。
それに伴って歌い方が幾分か変化してきた部分もある。
近年のライブでの演奏は、アルバム『C’mon』に収録された「ultra soul 2011」をベースにしたアレンジである。ヘヴィなリズムに合わせて歌う必要がある。
また楽曲の音域的には、実は非常に歌いづらい。(A・Bは低音、サビは音の飛び方がワイド。
そもそも元音源自体も、エフェクトがかかっている中での歌唱で聞こえ方をよくしている節があるため、リリースされた時点からそもそも歌いにくい楽曲であるとも言える。)
よって、現状に即した、より工夫した歌い方が求められている。
実際の稲葉さんの歌い方
冒頭に説明した「喉に優しいミドルボイスでの歌い方」が存分に反映されている。
Aメロ・Bメロはかなり低い音域での歌唱になるが、この時点からミドル成分をしっかり取り込んで発声しているのが印象的だ。近年一貫して見られるスタンスである。
サビ前の「メナイ・メマイ」は今回オクターブ下で歌唱。
ツアーごとに上で歌うか下で歌うかは変えているようだ。
経年によるものでもなく、またツアーごとに変えていることを、ロジカルに説明できるわけでもないので、稲葉さんの歌に対するアプローチにしては珍しい事象である。
1番サビ終わりの間奏では、mid2DからhiB♭くらいまで伸ばす格好で「yeah~」という合いの手を入れることが多かった。(日によってシャウトの内容は異なっていた。しかし要は、通常のシャウトなどよりは低い音域で、じわじわと観客を盛り上げる意図があったと思われる)通常ultra soulは中後半の盛り上がり場面で演奏されることが多かったため、今回冒頭で、”シリアスに盛り上げる”という方法を、稲葉さんはあえて選択しているように見受けられた。
そして、当楽曲の演奏回数があまりにも多いため、今回全体的に歌唱で目立った変化は見受けられない。
前回のツアーからの延長線上にある歌い方であったと言えるし、また今回のツアーでベースとなっている発声がそのまま楽曲に反映されていたとも言えよう。
今回の特徴が顕著なのがサビ頭「その手でドアを~」の「て」。
この部分はhiBの音なのだが、5年前の「ENDLESS SUMMER」などと比較しても、線が細くならないように、かなり丁寧に、柔らかく出しに行っていることが窺える。
(「ENDLESS SUMMER」ツアー時は全体的に鼻に抜く印象が強かった)
このhiBが、メロディの中で多く登場する楽曲でもあるので、ここを優しく、太く出すことで曲全体の運びが楽になっている。
サビの「soul」の部分は短く、「ソウッ」と声の支えをしっかりとして出している。
Cメロ「鍛え抜かれる」はほとんどの公演で上がっていくフェイクを見せていた。
2. BLOWIN’
概要
92年リリースのB’zを代表するシングル曲。08年ULTRA Treasureリリース時に再録された影響もあり、近年は生音と融合した現代的なサウンドも取り込みながら演奏されている。
稲葉さんの考え方
イントロから4つ打ち感溢れるビート。1曲を通してリズミカルに歌う必要がある。
音域は全体的に中音域で構成されている。そのため高音を張る必要はない。
しかしこの曲の問題は『ブレス』である。サビのブレス位置が際立って少ないのと、2番サビ終わりに間髪入れずにCメロが入ってくるのが非常に難所。
(リリース直後のツアーではサビの「yes」を歌っていなかったのに、以後「yes」の部分を歌っている。)故にこの曲では「リズム」と「ブレス」がカギになってくると言えるだろう。
実際の稲葉さんの歌い方
前曲『ultra soul』に続き中音域が多めのロックとポップが融合した楽曲。
楽曲が続いていたためドラムが切り替わる頭のタイミングで「Au!」や「Yeah」というような掛け声を入れていた。
A・Bメロは低中音域。Bメロ前やサビ前には「Hey!」を随時挿入。
Cメロの「旅をする~」の部分は語尾を上げていって、hiC#で次の拍の頭に「Yeah!」で終わらせるパターンがほとんどだった。
Bメロの終わり「はずもない」の語尾は「な~い」と「な」を長くする歌い方になっていた。
また、興味深いのがラスサビの最後の「~ないように」。
仙台2日目や福岡など調子が悪いときは原曲通りのhiA〜mid2A〜mid2B、通常の調子のときにはULTRA Treasure音源時と同じオクターブ上で歌唱。そして福岡で調子を崩してからが注目だ。”けがの功名”なのか拍を後ろにずらす芸当を見せ、千秋楽までの公演では拍を後ろにずらして歌っていた。
実はこの拍を後ろにずらすアレンジは、「ブレスを確保する」ことと「アレンジが施せる」ことの効果がある。いわば一石二鳥のテクニックであり、前年2017年ロックフェスで演奏された「Liar! Liar!」のラストサビ部分「それでいい」を後ろにずらして歌った際にも使われたテクニックであった。
体調を崩した後はセーフティな歌い方を選択して、リスクヘッジをかけた方が良いはずだ。このことからも稲葉さんは実に聡明な方であると、改めて感じさせられる次第である。
3. ミエナイチカラ~INVISIBLE ONE~
概要
96年発売のシングル。LIVE-GYM、とりわけPleasureツアーにはなかなか縁がなかったが、今回無事ファンの手によって松本の元に舞い戻ったギター・ミュージックマンと共に久々に表舞台に姿を現した。
稲葉さんの考え方
Aメロもサビも、実はほとんど中音域で構成されている楽曲。そのため今の稲葉さんにとっては、かなり歌いやすい楽曲となっている。やわらかいミドルボイスを駆使して、負担を少なく歌い切りたいところだ。
また最後のコーラスセクションは、延々とリピートが続くので工夫を入れたい。最後のシャウトは見せ所でもある。
実際の稲葉さんの歌い方
全体的にやわらかいミドルボイスを駆使して、負担を少なくして歌い切っていた。
歌い出し「夢ならあるはずだ」の「ゆ」を聴いていただければよくわかるはずだ。
楽曲全体でみると、符割りは原曲と比較して運びやすいようにアレンジされている。
例えばサビの「~なればいいよ」の部分は歌い始めを早くして、スムーズに歌えるようにしている。またAメロ終わりなどは早く切り上げて歌っている。
サビ頭の音はmid2G#。この辺りを安定的に出せるレベル感で、やわらかいミドルボイスを潤沢に使用している。
「未来はそんなには暗くない」の「ない」は、08年ACTIONツアーから一貫して、「な~い」となを伸ばす符割に変えている。
この理由としては、原曲通り「い」を等間隔にすると、キンキンして聞こえてしまうこと、喉への負担が増えることが挙げられる。
※前述したBLOWIN’の「分かり合えるはずもな~い」と同じ類の処理である。
間奏で、原曲では「Now,you’ve got me」という掛け声が入るが、今回は「Oh,you’ve got me」と発音していたように感じる。
ネイティブではないので恐縮だが、ただでさえ現在完了で、「今」わかってくれた感覚のあるフレーズに、わざわざnowを入れることへの違和感を、稲葉さんが気にされたのかもしれない。
ラストコーラスパートでは、同じフレーズがリピートされる部分がある。
Into Freeあたりから、各3小節目のメロディ締めをmid2G#からmid2Eに変える試みがなされている。(リピート連続を避けるためか)
最後の「It’s never too late~」はACTIONツアーから、「too late」を「hiC#~mid2G#~midF#~midE~」と高く変化されるパターンが定着していて、今回も踏襲した。「hiC#~hiC#~」と高いまま伸ばす公演も半数近くあり、つまりは流動的にフレーズを歌っていたということが言えるだろう。総括して言うと、このセクションの旋律は稲葉さん的に決めておらず、都度いくつかのフェイクを使い分けて歌いこなしているのであった。
そして大阪公演から最後の「die」の伸ばし方を「hiB~hiC# hiB~~~」から「hiB~hiD# hiC hiB♭~~~」に変えていたことも実に興味深い。一度トライしてしっくり来たのであろう。
稲葉さんの歌はトライアンドエラーの繰り返しなのである。
4. 裸足の女神
概要
93年発売の大ヒットシングル曲。ミディアムで優しい曲調であり、コーラスパートがあるためか、ライブでは定番曲。演奏される機会が非常に多い。演出としては過去のライブ映像が流れた。
稲葉さんの考え方
ミディアムな16ビートで、ロックサウンドかつポップな楽曲。
楽曲の魅力であるオーディエンスとの一体感を演出したい。
音域は中音域がメインであるため稲葉さんにとっては歌いやすい楽曲であると言える。
サビの最後の「い」もできればビブラートをかけながら細くならないように歌い切りたい。
実際の稲葉さんの歌い方
まず歌い方に言及する前に、演奏に注目しなければならない。
仙台公演時点では、2サビのみ『白玉伸ばし(1小節フレーズを伸ばす)』でシンガロング(皆で歌うこと)するアレンジだったのだが、広島公演では1番と2番で白玉伸ばしが行われていた。(以後千秋楽まで全て)
そして9/1福岡公演では稲葉さんが喉の不調により舞台から降り、戻ってきて最初に歌った曲がこれ。「エ~オ!」というようなコール&レスポンスを数回した後、増田さんのオルガンによるAのコードをバックにサビのフレーズを歌い始めるアレンジは、9/1福岡公演から始まった。(喉の不調がアレンジに影響したかどうかは不明だが、9/1は稲葉さんステージ復帰の場として「エ~オ!」から始めたのは良策だったと思われる。)
現在の稲葉さんの歌い方に非常にマッチした楽曲であると言えよう。
今回は全体的にビブラートを聴かせながら、太く安定的に発声されていた印象だ。
サビの歌詞は、概ね音源通り歌われていたが、福岡公演より符割が食い気味(かくさ~な~いで~の「で」が少し早く出るイメージ)になる箇所がある公演が出てきた。少し前に出すことで、歌の負担は軽減するため、半ば無意識的に行ったのだろう。
2番Bメロ入りは「Oh~」より「Yeah~」(midF#)で入ることの方が多かった。
4. TIME
概要
92年発売『BLOWIN’』のカップリング曲。両A面シングルと間違われる程に人気の高い曲で、ライブで演奏される機会も非常に多い。今回は『裸足の女神』と日替わりで演奏された。 演出としては『裸足の女神』と同じく、過去のライブ映像が流れた。
稲葉さんの考え方
ミディアムバラードなのでリズム等の面では歌いやすく、また音域も中音域が多いため、目立って歌いにくいわけではない。しかし曲のスケール感が壮大でありタメるなどして「聴かせる」必要があること、そして稲葉さんの歌い方との根本的なマッチングの観点で、曲中に若干ビブラートがかけにくい局面が出てくるため(そのような場合はストレートに伸ばしたりしている)、随所で機転の利いた”歌い回し”が必要になってくるとも言える。
ラスサビの最後ではブレスを確保するのが難しいため、最後の「届かない」を伸ばすあたりでは我慢して歌う必要がありそうだ。
実際の稲葉さんの歌い方
近年稲葉さんが使っている柔らかいミドルボイスの影響を多分に受けている。
Aメロ歌い出しから、軽いタッチで口先と鼻を使って歌う感覚が近いと思われる。
サビ頭はミドル成分をしっかりと含んで、マイルドに発声。
サビ後ろの語尾にビブラートをかけるのが、諸々の関係上難しいため、かかりにくいときにはすっとまっすぐ伸ばし、軽めに切り上げるシーンも見られた。(これはリリース当初から)
9/21の公演では、当楽曲を含めた序盤数曲で、特に顕著にあらゆる発声の仕方を試みていることが印象的だった。
演出としては、2番の「手をつなぎ声を上げて」の「手をつなぎ」で映像とシンクロする場面があるため、必ず左手を差し伸ばすポーズをとって歌っていた。
また「罪だけが増えてゆく」の後の休符に「Wow yeah」(hiD~hiB~hiA~)というシャウトを入れていた。
5. Wonderful Opportunity
概要
91年発売アルバム『IN THE LIFE』収録曲。アルバム曲でありながらファンの人気の高い楽曲であり、ベストアルバム『B’z The Best “Treasure”』のファン投票では20位になり、その曲名を当てるクイズで曲を当てた人にはB’z人形がプレゼントされた。B’zとしては珍しく振り付けの付いた楽曲。またシャッフルの楽曲である。
稲葉さんの考え方
シャッフルのリズミカルな曲。
楽曲は低中音域で構成されている。音域的には全く問題ないが、
「ブレス」という観点ではサビ部分で少々苦しくなってしまう。
97年のPleasureツアーでは「シンパイナイ~」の部分を歌っていないことが「Loud-Gym」で確認できたが、ブレス確保という観点があったのかもしれない。
最後の「It’s alright!」はシャウト部分で、非常に見せどころである。
(会場ではシャウト後拍手が沸き起こっていた。)
実際の稲葉さんの歌い方
原曲の歌いまわしに極めて忠実に歌唱していた印象。
現在のマイルドなミドルボイスを、存分に生かして安定的に負担少なく発声できていた。
また演出としては公演が進むにつれて、わざとあいまいに振り付けをしているように思われた。(演出の一環だろう)
08年ACTIONツアーでは間奏部分突入時に「1,2,3,4!」と掛け声をかけていたが、今回は特に掛け声に固執していなかった。
5. love me, I love you
概要
95年発売のシングル曲。水曜日発売の慣例を破り7/7金曜日に発売された。
札幌でゲリラ的に撮影されたMVも非常に好評である。
3連のリズムの曲で、歴代サポートドラマーの黒瀬とシェーンが最も難しい曲としてピックアップしていた。
稲葉さんの考え方
3連のシャッフルの曲。音域自体は最後の「褒めろよ」の「よ」hiC#が最高音で、中音域主体のためそこまで高くない。2番のAメロ歌い始めの入りタイミングがフィル後で少々難しい。
実際の稲葉さんの歌い方
マイクスタンドを持ち歩きながら歌唱。(稲葉さんは歌う時の姿勢を柔軟に変えて曲に対応している)
サビ頭の音域が軽く出せるような、ミドルボイスを多く含んだ歌声で歌い切った。
特に歌い回しで多く変わった点は見られなかった。
間奏は拍の取り方が変わるため、「(ウン)タッタッ」と手を大きく叩いてオーディエンスを一体化させるしぐさを行った。(リリース以来同じ)
6. 光芒
概要
07年発売アルバム『ACTION』収録曲。今回は人気投票で上位にランクインしたため、晴れてPleasureツアーで演奏されることとなった。
稲葉さんの考え方
バラードでありながら、サビ部分で高音域が用いられる楽曲。
Aメロ・Bメロでは低音域も登場し、全体的に幅広い音域を使うため神経をとがらせて臨む必要がありそうだ。(実際に稲葉さんは会報で当楽曲を歌う苦労を語っている)
またラスト大サビ前には原曲の構成ではブレスが少ないように感じられる。
実際の稲葉さんの歌い方
まず演奏部分において、ラスト大サビ前に2小節ブレイクが追加されていたことを記すべきだろう。もちろん楽曲構成をライブ仕様にすべく追加されたということもできるが、おそらく大サビに向かうヴォーカルの歌唱のために設けられたというのが第一の理由だろう。
一方稲葉さんとしてはブレイク中にhiEの「~~~Ah~~~」というビブラートをかけながらのシャウトをうっすらと披露していた。※調子次第で各公演出来栄えが変わっていた
歌い方としては、08年ACTIONツアーと比較して、喉に負担のかからない歌い方になっている。
大サビ最高音hiC#の「誰かにとっての」「れえー」部分では、裏声の成分を多めに含みながら、程よくがならせるようなイメージで歌っていた。
最後の「なるでしょう」は、08年は「でしょう」だけ後ろにずらして歌っていたと思われるが、今回は原曲の尺の通りに歌っていた。
この部分に関しては、ブレスよりも楽曲の流れを優先させたのではないだろうか。
ともあれ、福岡公演で声の調子を崩してからはセットリストから度々カットされた当楽曲。
歌う際に非常に多くの負担がかかる楽曲であるため、稲葉さんや運営サイドは特に警戒していたのではないだろうか。
7. 月光
概要
92年発売アルバム『RUN』収録曲。アルバム収録曲ながらファンの間での人気が非常に高く、近年のPleasureツアーでは頻繁に演奏されている。
稲葉さんの考え方
メロウでドラマチックなバラード曲であり、まさに聴かせることが重要になってくる。
Aメロなどでは低音域が多めに出てくるため、低い音もある程度聴かせなければならない。
そのような意味において全体的に”発声ギア”は多少低めに設定するイメージ。
Aメロはささやくように静かに歌いつつも、一方間奏後Bメロの最後は高く力強いシャウトを響かせなければならない。
またラスサビ終わりは「を」をビブラートで締めたいところだ。
演出としては、豊田公演から月光演奏前にギターフレーズが設けられた。
稲葉さんの『光芒』歌唱後のインターバルを取りたかったのが大きな理由ではないだろうか。
実際の稲葉さんの歌い方
1番Aメロは想像以上にささやく感覚で歌っていた。(深みを見せるというよりは、上から覆いかぶせる感覚で)
2番サビ「想いだけを~」の「お」は原曲より前に出してシンコペーション。
ラスサビ終わりはフェイクを入れずに原曲の旋律を固持。
構成上ビブラートが苦しいところだが半ば強引に揺らせるだけ揺らして締めていた。
7. もう一度キスしたかった
概要
91年発売アルバム『IN THE LIFE』収録曲。シングル曲と間違えられる程の人気曲であり、松本は歌詞のテクニックを評価。稲葉も松本メロディとして評価している。「ALONE」とシングル候補を争った曲。 近年はアウトロで「恋はみずいろ」のワンフレーズを弾き終了することが多い。
稲葉さんの考え方
メロディックな世界観の確立されたバラード。
世界観に即して、切なく歌うべき楽曲であろう。
91年のレコーディング時には風邪をひいていたり、当時の歌い方の影響があったりして鼻がかった歌い方になっているが、現在に即した歌い方にする必要がある。
実際の稲葉さんの歌い方
全体的に、原曲に忠実であったということができると思う。
拍の取り方も、08年などは歌詞の符割りをずらしていたが、今回はかなり忠実に歌っていた。
また声のタッチも原曲に寄せていたと思われる。(現在のマイルドなミドルボイスを、当時の優しい歌い方に投影させるイメージ)
サビ前の「Oh~」は歌っていなかった。(2012年以降とそれ以前の一部も)
実は今回、あらゆる楽曲において、稲葉さんの頭の中に”原曲に忠実に”という小テーマのようなものがあったと思えてならない。もちろん発声は現在式のものなのだが、アプローチに関しては、原曲のものを尊重する箇所が多くみられた。
8. 恋心 (KOI-GOKORO)
概要
92年発売シングル『ZERO』のカップリング曲。98年発売ファン投票ベストアルバム『B’z The Best “Treasure”』でファン投票1位を獲得した。B’zとしては珍しい振り付けの付いた曲である。
曲中に『松本』という単語が登場する。
稲葉さんの考え方
振り付けの付いた曲であり、全体的に明るく、一体感溢れる空気感に仕上げたい。
音域はまさに中音域中心。振り付けと歌を両立させるため、マイクスタンドを用いた歌唱となる。
実際の稲葉さんの歌い方
振り付けの付いた曲であるため、マイクスタンドにマイクをセットして振りをしながら歌唱。
また今回は、「今頃になって全員で振り付けを確認するというから歌に入る」という演出が施された。(『Wonderful Opportunity』演奏時は、MC時に「あれは振り付け曲にカウントされない」旨言及する場面も見られたが、全公演で言っているわけではなかった)
演出は、千秋楽公演に近づくにつれ、振り付けを間違える確率が増していった印象。
当初は偶発的に間違っていたものを、後になって多少意図的に間違えていたのかもしれない。
歌に関しては、現在式の発声をそのまま反映した印象で、大きな変更点は見られなかった。
振り付けレクチャー時は、軽くアカペラでサビ部分を歌う姿が見られた。
概ね全公演で原曲キーから半音の半分ほどフラットしたメロディを、裏声ベースで歌っていた。
ちなみに余談だが、B’zがライブで演奏する楽曲の名前を出して言及することは極めて珍しい。
しかし今回のMCでは「恋心」と宣言してから演奏したわけだ。
9月末のファンクラブ向けハワイ公演では、レア楽曲の演奏終了後に、曲名を交えてMCをする場面も見られた。以前の、曲名を伏せて緊迫させるようなスタンスよりも、曲のことをB’zと観客で和気あいあいとシェアするといったスタンスに若干シフトしつつあった(少なくとも2018年は)とわずかながらに感じた次第である。蛇足ではあるが、付記しておきたい。
9. OH! GIRL
概要
89年発売2ndアルバム『OFF THE LOCK』収録曲。当初からファン人気の高い楽曲で、後に00年発売マストアルバム『B’z The “Mixture”』で再録したものが収録された。Pleasureツアーで演奏されることが多い。
稲葉さんの考え方
初期アルバム収録曲ということもあり、中音域といっても全体的にかなり低い音域で歌うことができる。
曲調はロックテイストでありながら音域が低いということ、そしてリリースから時間が経ち、Mixture styleも経ているということから、あらゆる個所をアレンジして歌うことも必要になってくるだろう。
実際の稲葉さんの歌い方
現在の歌い方をしっかりと反映して、比較的楽に歌えていたという印象。
サビのメロディがそれほど高くないのだが、ビブラートも伴いながら喉を開きつつ歌っていた印象だ。
Cメロでは稲葉さんはステージ下手に行き、「ウンッタンッ」というドラムのリズムに合わせて、手を使ってリズムを取るしぐさをする公演が多かった。
またラスサビの「I’m never gonna leave you~」では、「mid2F#~mid2F#~mid2F#~hiA~hiB~hiD~hiC# hiB~」というフェイクを導入。
しかしこれが、hiDへの上昇時に声がひっくり返るリスクをはらんでいる。
そのため調子の悪い公演では、危険を冒さず通常通りhiBまでに留める公演もいくつか存在していた。
そしてさらに稲葉さんのトライは続く。
大阪公演からはなんと「I’m never gonna leave you~」の歌い出すタイミングを絶妙にずらすことにトライ。(これも状態を見てトライしない公演もあった)
一つのフレーズでもいくつかのパターンを試し、試行錯誤するその姿はまさしくプロフェッショナルそのものである。
10. イチブトゼンブ
概要
09年発売大ヒットシングル曲。リリース以来ほぼすべてのライブで演奏されている。※今回一部会場では演奏カット
フジテレビ系月9ドラマ『ブザー・ビート〜崖っぷちのヒーロー〜』の主題歌で、オリコンシングルCD年間チャート6位を記録、また着うた配信では200万以上のダウンロードを記録した。ドラムにはRed Hot Chili Peppersのチャド・スミスが参加している。
稲葉さんの考え方
09年のリリース以来、ほぼすべてのライブで演奏しており、認知度も高くライブで盛り上がる楽曲。
歌い慣れてはいるが、近年の歌い方の変化に伴って、最近はどうも歌いにくくなりつつある。
Aメロはそれほど音域が高くないのだが、サビの音の飛び方があまり”Comfortableではない”印象だ。
高音を軽い力で歌う傾向のある近年は、サビをソフトに軽く歌い上げる方向に。
そして最も難所なのが「ひとつありゃいいのに」の「ありゃいいのに」の部分。
「あ」がhiCで少々高く、かつ音の並びも少々難しい。
「に」を伸ばすことも実は難しく、ビブラートをかけて落ち着いて歌うことはほぼ不可能だ。
またラスサビの「に」を「mid2G~~~hiA~hiB~hiA~hiG~mid2E~」というようにフェイクで伸ばして処理することもある。
ちなみに実際に「クロニクル」のインタビューで、稲葉さんは”「イチブトゼンブ」の方が「ギリギリchop」よりも苦しい”旨を”激白”している。
実際の稲葉さんの歌い方
今回体調不良のため、一部公演でカットされた『イチブトゼンブ』。
前述の通り稲葉さんはどうやら『イチブトゼンブ』に近年苦戦しているようだ。
ちなみにOH!GIRL演奏時にステージ上に登場した人形を片付ける時間が足りなかったためか、大阪公演1日目以降は『イチブトゼンブ』の電子音イントロの長さが2倍になった。
前述の通り、サビは軽めの力で歌う傾向になりつつある。
また体調不良後、『イチブトゼンブ』がメニューに復帰した際は、9/1以前よりも警戒して『イチブトゼンブ』を歌っていた印象だった。(サビにおいてのミドルボイスの使い方)
ミックスのさせ方に細心の注意を払っている様子が何度も確認できた。
ともあれ、これからも稲葉さんは『イチブトゼンブ』と格闘し続けることだろう。
11. ねがい
概要
95年発売の大ヒットシングル曲。94年、ブルース的、内省的な音楽的志向に舵を切ってしまったB’zは一度制作環境を解体。編曲に稲葉さんも参加するなどして新たに制作されたのが『ねがい』であった。MV撮影時に松本さんは風邪をひき、横浜ビジネスパークの噴水広場で撮影されたシーンでは稲葉さんのみが歌っている。
稲葉さんの考え方
ジャジーなサウンド、リズムの楽曲であり、Aメロから繊細なタッチで歌い始めなければならない。一方Bメロ、サビでは力強い歌唱も必要。
またアウトロではオーディエンスとシンガロングして盛り上げることができる。
実際の稲葉さんの歌い方
実は今回、稲葉さんは『ねがい』の歌い方にかなり苦戦していた。(5年前と比較しても歌いにくかったと断言できる)
「現在の稲葉さんの歌い方とのマッチング度が急激に変化し合わなくなった楽曲」という観点では、『ねがい』は演奏曲の中で最も該当すると言えるのではないだろうか。
理由は、平たく言えば「現在のベースとなっている発声ギア比」が『ねがい』の音の飛び方(つまりメロディ)と親和性が低いということになる。例えばAメロ。mid2Eから歌い出す際に、必死にボリュームや深みを稼ぎ出そうとするのだが、なかなか”ギア”が引っかかってきにくい。
低くもなく高くもないこの音域から歌い始め、サビに向かうということ自体が厳しいスタートの所以である。
歌う姿勢にも必ず意味がある。ねがいの稲葉さんの歌う姿勢についてだが、Aメロはマイクスタンドを持ちながら股を広げ、マイクを斜め下に向けてミドルボイスを稼ごうとする姿勢だった。
この姿勢をとることで、懸命に発声成分を手繰り寄せるイメージだ。
Bメロの「Hey!」はオーディエンスに言わせる方針。ブレス確保や曲の流れから考えて、妥当な選択だと言えるだろう。
「自分で選んで歩いて~」の「ら~」がhiBでBメロのトップになるため、ここでできるだけ張り上げるように歌う。
1サビ前のブレイクでは掛け声を入れずにサビに備える。(同じくブレス確保にも有効)
サビでは、マイクスタンドを担ぎ、ぐるぐる回るようにして歌うことが多かった。
原曲では歯切れよく、「ねっがっいっよっっかなっえっ」と発音していたが、
現在のミドルボイスの兼ね合いで、「ねがいよ叶え」の「よかな」の発音がくっきりしなくなった印象である。サビの制御も、実に難しい。
2番Aメロ「窒息したい」は5年前と違うフレーズでのフェイク。「た~い」をmid2Dからmid2Eに上げて、そのあとに「yeah」をhiA~mid2Gで歌うよう固定されていた。
稲葉さんは毎回のツアーでこの箇所を変化させている。
2番サビ前のhihiA「アゥ!」というシャウトは、必ず入れていた。(楽曲の肝になるシャウトは、稲葉さんは決めている)
以前のようにとがったシャウトではなく、柔らかい声でのシャウトとなっている。これも発声のギア比が関係しているのだ。
それでも稲葉さんは、必死に『ねがい』と向き合っていた。
ここで楽曲の話から突如、総論になって恐縮だが、稲葉さんが『ねがい』に苦しんだ背景の前述した“発声ギア比”の詳細を記しておこう。
95年・リリース当初は、制作されている楽曲はほとんど中音域ベース。
たまに高音域に音が飛ぶ(またはたまに高音シャウトがある)ような楽曲が多かったので、
稲葉さんはサビの中音域に重心を置き、また中音域を艶やかに全力で歌うことができたのだ。
しかし現在は30年以上に及ぶ楽曲に対応するために発声のギア比を変更。
高音域にも基本的に対応できるような発声をしているため、逆に過去の楽曲が歌いにくくなるケースも起こり得るのである。
少々『ねがい』に筆を割いてしまったが、苦戦したといっても実際に聞くとわからない人も多いレベルである。あくまで稲葉さんの立場で細かく見たときに、今このような状況になっているのではないかという考察と推測であるため、そこまで気にしないでほしい。
そして、次回演奏時にはまた違ったパフォーマンスを見せてくれるかもしれない。
11. ZERO
概要
92年発売の大ヒットシングル曲。ハードなサウンドが特徴的で、発売当初はなんとノンタイアップだった。後に09年に『麒麟ZERO』CMソングに決定。曲中には珍しくラップ部分が設けられている。ファンからの人気も非常に高い楽曲で、LIVE-GYMでの演奏回数が最も多い楽曲である。
稲葉さんの考え方
ハードなサウンドとは裏腹に、実は音域の高さはそれほど高くない。
むしろサビにおいては通常よりも低めのメロディのため注意が必要だ。
また、サビが連続する構成なので、適宜合いの手を入れていくと良いだろう。
ラスサビ前「君が僕に教えてよ」の部分ではまれに「教えてくれ~!」とセリフを追加することがある。
実際の稲葉さんの歌い方
実は前述の通り『ZERO』のサビは音域が低い。そのため具体的には95年あたり以降においては、歌としてはずっと埋もれてしまうような傾向があった。(改めて説明しておくが、稲葉さんはミドルボイスを使用しているため、ある一定の条件で低音域を歌う場合だとボリュームや響きを稼ぐのに苦労を要する場合がある)つまり稲葉さんの発声との相性で言うと、『ZERO』も決して恵まれているとは言えない楽曲なのだ。
今回もその傾向が見られ、日替わりの『ねがい』とともに苦しい時間帯だったのかもしれない。
しかし体力を消耗するというわけではないので、ライブでは今後も積極的に歌われていく楽曲になるのではないかと思っている。演出が絡まったのはもちろんあるが、改めて『ZERO』のライブにおけるポテンシャルの高さを垣間見たというのが率直な感想である。
12. ALONE
概要
91年発売のシングル曲。前作『LADY NAVIGATION』に続き2回目のミリオンセラーを達成した。
95年のBUZZ!!ツアーでは洋楽バンド「Guns N’ Roses」をイメージしたような、稲葉さんのピアノ弾き語り&松本さんのピアノに乗ったギター演奏の演出が見られた。
今回は23年ぶりに当演出がリバイバルしたことになる。スタジアム公演より追加。
稲葉さんの考え方
ピアノも入ったミディアムバラード。
演出上、自身はピアノを弾きながら、座って歌わなければならない。
13年演奏時より、ラスサビの「You’re gone」ではフェイクでhiA~mid2F#~mid2E~と歌うようになった。今後はほぼ固定で使っていくフレーズになるだろう。
実際の稲葉さんの歌い方
今回見て最も感じたことが、”「稲葉さんが座って歌うこと」と『ALONEという楽曲』が非常にマッチしていることである。
『ALONE』は、メロディの音域が全体的に低い。
そのため、近年の発声ギア比では低くて拾いにくく、発声的には抜けてしまう傾向があった。
(13年ENDLESS SUMMERツアー演奏時の『ALONE』をご覧いただければ、趣旨をご理解いただけるかと思う。)
しかし今回、ピアノ演奏のため座って歌うと、発声の際の姿勢の関係で、すとんと重心を落とすことができ、落ち着いて深みを保った声で終始歌い切ることに成功した。
これは想定外の効果だったのではないだろうか?
稲葉さんも非常に歌いやすそうであった。
今後、ライブにおいて毎回ピアノ弾き語りの演出を施すことは困難かもしれないが、『ALONE』の魅力をいろんな意味で最大限に引き出した演出であったため、また見てみたいというのが率直な感想である。
そして今回、もう一つどうしても書いておきたいことがある。
今回のツアーでは、福岡公演までは原曲にかなり忠実な旋律で歌っていたのだが、
豊田公演において突如、歌い続ける「声は~」の部分をhiA~hiB~midF#~mid2E~と、実質的な3度上の旋律で歌ったのである。思わずはっとさせられた瞬間であった。この曲は、6分以上の長さがあり、ともすれば単調になりかねない性質上、稲葉さんがチャレンジをしたのかもしれない。
そしてさらに付記しておくと、最初のトライの際(豊田3日目と記憶している。豊田2日目からアウトロでフェイクしており、チャレンジの兆候は見られた)に、少しフェイクの着地を誤ってしまった。(咄嗟に思いついたのか、迷いが見られた)稲葉さん自身も悔しかったに違いない。
しかし次回の公演で、素晴らしいフェイクに修正してきた。
なんとストイックで戦略的なヴォーカリストなのだろうと、感動させられたものである。
稲葉さんは間違いなく、一つ一つの旋律を大切にする、繊細で知的なヴォーカリストである。
また余談だが、弾き語りのピアノの最後はAのコードで終わるのだが、途中の公演から右手でhihiA(A5)付近でピアノを半音ずつピロピロ弾いて終わらせるようになった。(これも豊田3日目からと記憶している)
余韻を醸し出したかったのか、稲葉さんがも本当に生で弾いていることを証明したかったのかは定かではないが、稲葉さんが何らかの意図をもって変更したポイントであろう。
おそらくライブDVD&Blu-rayではピアノをピロピロしている稲葉さんが見れるはずだ。
13. OCEAN
概要
05年に発売された大ヒットシングル曲。
売り上げや知名度の割には、近年のライブでの演奏度合が高いとは思わないが、(バラード曲であるため、演奏枠の問題もあるだろう)
今回Pleasureツアーではアリーナ公演で日の目を見ることになった。
稲葉さんの考え方
バラード曲であり、中音域メインの曲であるため歌いにくいわけではない。
しかしミドルボイスとの兼ね合いで、声の深みやビブラートが稼ぎにくい曲であり、
また2番頭でのブレス位置で、十分に息を確保できない傾向もある。
(つまり曲が進むにつれて、ブレスは十分ではなくなる恐れがある)
歌いやすいようで油断はできない、不思議なバラード楽曲である。
実際の稲葉さんの歌い方
演奏自体は久しぶりだと思われるが、問題なく歌い切っていた印象だ。
MCではご当地の海に想いを馳せて聴いてほしいという旨の内容が語られた。
しかし広島公演初日で、ちょっとしたハプニングがあった。
2番サビで歌詞を間違ってしまい、ブレスのリズムが崩れ、
突如ガラガラ声になってしまったのである。
これは『OCEAN』がブレス的に厳しい楽曲な故に起きた現象だと私は確信している。
一度ブレスのタイミングを失うと、立て直すのが難しいのだ。
その時の声が、どうも2017年年末のレディクレ公演時のような深刻なものに聞こえたため、一部ファンは騒然となった。しかしその後、間奏中に水を摂取し、見事立て直した。
以降は全く問題なく歌い切りライブを終了させた。
13. Calling【※映像作品視聴後、後記】
概要
97年にリリースされたシングル曲。楽曲の構成が独特であり、その分多くの制作時間とアレンジャーが投入されて出来上がった曲である。元々は松本が知人の結婚式のために作った曲が元となっており、B’z LIVE-GYM Pleasure ’97 “FIREBALL”アンコール1曲目には松本自身のピアノ伴奏とともに同曲が始めてお披露目された。
稲葉さんの考え方
楽曲自体はピアノ、ストリングス、そしてギターが重なり合う壮大なロックバラード。
しっとり聴かせるセクション、または張り上げるセクションなど、楽曲の中である程度のメリハリは効かせた方が良さそうだ。
またライブ演奏時はアウトロで激しいアレンジメントが施されることが多いため、シャウトを取り入れる必要がある。
実際の稲葉さんの歌い方
映像作品『HINOTORI』収録の「Calling (EHIMEKEN BUDOUKAN 20180811) 」を視聴して後記させていただきます。
映像を拝見して感じたことを記載する。
まず全体的な歌い方は、他の多くの楽曲と同じように、2018年現在の稲葉さんの、ミドルボイス成分を多く含んだ声で歌い切っていたものと言えよう。そのためサビでのhiAやhiBも比較的楽にすっと出せている状況だ。(特に同曲リリース直後の97年、98年のライブ時の発声と比べると、いかに稲葉さんの発声が変化を伴ってきたかが如実にわかるだろう)
楽曲の途中に随所に「アゥ」や「オゥ」というシャウトを入れているが、これも大変興味深い。
楽曲に合わせた種類のシャウトとも言えるが、個人的には収録されている当日のコンディションによるものもあると感じた。
決して調子が悪いという意味ではないが、この日はほんのわずかにhiC#~hiF#あたりの裏声成分に引っ張られてしまいやすい傾向があるように感じられた。
高次元でのミックスを行っている発声であるため、日によって声のかかり具合が微妙に異なるのである。その意味においては、シャウト一つひとつも当日のコンディションを反映した合理的なものとなっている場合が非常に多い。稲葉さんの歌い方はまさに、一挙手一投足が見逃せないものであると私が感じている所以の一つである。
さて、当楽曲に少々筆を割きすぎてしまったが、この楽曲で注目を集めるのはやはりラストのシャウト部分だろう。
「yeah~アキャキャキャキャキャキャキャキャ」と叫ぶ部分は、hiBでギアを入れて一気にhiF#の「アキャキャキャキャキャキャキャキャ」に駆け上がる。稲葉さんが得意としているシャウト音域だ。
「I’m calling you~」と叫ぶ部分だが、これはhiD#あたりをベースに出している。実はこれらのセクションでの発声体感はほぼ裏声成分のものであるため、実質負担はほぼない。
ただあそこまでの研ぎ澄まされた声を正確に放つその(そもそもこの発声法を作り上げた)発想と技術力は、明らかに異次元そのものである。稲葉浩志というヴォーカリストの尊さは、到底計り知れない。
今回はラスサビ1回目の「wow~」部分で演奏をストップさせてオーディエンスに歌わせるアレンジが施された。楽曲がキラリと光る価値あるアレンジだったと感じられた。
近年は「裸足の女神」「イチブトゼンブ」サビなどに見られる”白玉伸ばし”や、オーディエンスと一体化するアレンジが随所に挿入されることがより目立ってきたようにも感じられる。
ファンとB’zの一体感もまた、もちろんLIVE-GYMの魅力である。
※筆者が『Calling』演奏日に巡り合わなかったため、DVD&Blu-rayを鑑賞し、気づいたことを記載させていただきます。大変申し訳ありませんが、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。
13. LOVE PHANTOM
概要
95年発売の大ヒットシングル曲。B’z史上2番目に売れたシングル曲である。
ストリングス主体の1分20秒にも及ぶイントロ、曲中のラップ、2種類しかないメロディ構成などすべてが斬新であり、うまくハマった楽曲であると言えよう。
実はBUZZ!!ツアー開催時には演出上に用いる予定で書き下ろされた新曲であり、ファンは全く知らない状態で聴くこととなった。以後10月にシングルでリリースされたというのが本作品のいきさつである。
稲葉さんの考え方
近年は5年に一度、Pleasureツアー開催時に歌うことが定番化しつつある楽曲。
中音域中心の構成で、実はリリース当初からかなり歌いやすい。
大サビ前の箇所で00年代以降はロック的にアレンジされる演奏が続いていたが、ついに2018年に原曲に忠実なアレンジに戻された。(※後記:後日発売のライブDVDドキュメンタリー映像でもこの個所に言及された)
実際の稲葉さんの歌い方
近年の歌い方の延長線上的なアプローチで見事に歌い切っていた。
近年の稲葉さんの歌い方には非常にマッチした楽曲であると言えよう。
歌い方は、サビの頭、「捨ててしまおう」の歌い回しを歌いやすくアレンジしている。
拍を前に倒し、言ってみれば”深追いしない”発声だ。軽く乗せるようなアプローチといえばわかりやすいかもしれない。
サビの最高音、hiBは、現在のミドルボイスで倍音を含みながら強く発声できていた。
今回のライブのある意味主役級の楽曲であったが、その役割を十分に果たすパフォーマンスであったと言えるだろう。
14. HINOTORI
概要
「B’z 30th Year Exhibition “SCENES” 1988-2018」後期の展示で、「LOVE PHANTOM Opus.2」として楽譜と共に存在が発表されたこの楽曲。
LOVE PHANTOMの続編というコンセプトで書かれており、キーもテンポもLOVE PHANTOMと同じである。リハーサルで同じテーマの曲が2曲続く感覚になってしまった、という理由でLOVE PHANTOMの間に挟まる格好で演奏された。
稲葉さんの考え方(作詞も含めて)
まず稲葉さんの近年の傾向として、以前の楽曲と比べて、言葉のハマり具合よりも、もともとあるコンセプトを優先して歌詞を入れる傾向が強まっている。今回のHINOTORIも漏れなくその傾向があり、音として見たときにジャストフィットで音が乗っているわけではない。また、リズムも複雑であるため、これらが相まって実は言葉の面においては歌いにくい楽曲だ。
一方音域としては歌いやすい部類だ。中音域が多用されており、冒頭やサビ終わりのhiBで伸ばす部分は大きな見せ場となる。しっかり歌いたい箇所だ。
実際の稲葉さんの歌い方
まず見ていて思ったのが、公演回数を重ねるごとに稲葉さん自身が巧くなっていったことだ。
仙台公演2日目では(風邪っぽい印象があった、その影響もあってか)歌詞のノリがもっさりしてしまっており、広島公演1日目では冒頭のシャウトやサビ終わりの伸ばす箇所がしっかりhiBに固定されなかった(少しフラットしていた)りして、歌うのに苦労されている印象だった。
しかし、8月4日、日産以降の公演では軒並み安定的なパフォーマンスを見せている。
リズムもオケの上に乗っかるようになり、冒頭のシャウトも精度を増していったのである。
1番終わりの間奏では、「Oh~」というフェイクを入れていたが、序盤の公演では「mid2F#~mid2E~mid2D~mid2E~mid2D~mid2B~」と下がっていくようなフェイクだったのがだんだんとhiAにタッチするようになったりと、稲葉さんは1番終わりのフェイクを何度も変えて試していた。
筆者も自作曲をライブで歌ったことがあるが、どうしても決めきれない箇所というのが稀に存在する。HINOTORIという楽曲の性質としては、綺麗に固定させたフェイクを用いたかったと思われるが、実際問題、この箇所にフェイクを当てるのは実に難しい。稲葉さんの試行錯誤をここでも垣間見た思いだった。
冒頭のシャウトは、「Yeah~」でhiBだったのだが、途中からhiB~~~~hiD~~hiB~~や
hiB~~~~hiD~~hiB~~hiF#~~といったように豪華になっていった印象だ。
一方状況が苦しいほど(体調不安がどうしても拭えなかった)、公演によっては歌詞のノリが、前のめりになってしまい、歌詞と楽曲のマッチ度という点では十分確保できていなかったのではないかと思う節もある。
しかし「LOVE PHANTOM」に挟み込まれて演奏された表題曲。
演出、楽曲の完成度とともにファンの満足度は計り知れない。音源化を楽しみにされているファンの方は、私も含めて多いだろう。
ちなみにサビの「何かが/痛みに/抱きしめ」の箇所だが、メロディはmid2D mid2C# mid2D hiA~となる。このmid2DからhiAの上昇は、LIVE DINOSAURで演奏された『CHAMP』などにも見られるリスクヘッジが施されている。一度音の流れを切って、喉の動きをリセットして(一度mid2G#を経由するようなアプローチで)発声しても良いのだが、今回は連続的に上昇する動きを見せていた。これを実践することで、喉が裏返るリスクを抑えている。
CDで音源化されるときは、連続せず、一度切った歌い方に変わっているかもしれない箇所ではないかと考えており、個人的には注目している。
15. Real Thing Shakes(1コーラス)
概要
96年発売のシングル。発売当時は1曲のみ収録の500円で発売された。日本人アーティストが発売した全英語詞のシングルで、初めてミリオンセラーを達成した作品である。06年以来約12年ぶりに演奏された。
稲葉さんの考え方
全体的にキーが非常に高い。そのため歌う際にはある程度の覚悟をもって歌う必要がありそうだ。
間奏前BメロではhihiAのシャウトがあり、当楽曲の見せ所ではあるが、今回1コーラスのみ(7/28広島公演まではサビのみ)の披露となってしまい、ケアする必要がなかった。
※今回1コーラスのみ披露の意図は定かではないが、「hihiAシャウトが物理的に出なくなった」ため省略されたという線は考えられないと私は考えている。
また、今までのLIVE-GYMではすべての主旋律を原曲通りに歌ったわけではない。(2番サビ前のAメロ部分は前後のつながり含めて高いキーで攻めない方が賢明なため、下げることが多い)
しかし今回1コーラス披露ならば、Aメロのアプローチも全力で当たって良いのかもしれない。
実際の稲葉さんの歌い方
今回1コーラスのみ披露となったこととのトレードオフという意図が稲葉さんの中にあったかどうかは定かではないが、1番Aメロは原曲の主旋律を固持することに執着していた。※千秋楽公演以外私が見た11公演ではすべて主旋律をクリアしていた。
一方今の歌い方でAメロをそのまま歌うと、サビが少しあくびをしたような響きになってしまうが、なんとか形にしていた印象。そして最後の「find away」の「エ」の響きをそのまま伸ばしてhiC#まで引き上げ、「Are you ready?」という問いかけから『juice』に突入する流れだった。
ちなみにサビの歌詞「Something’s burnin’ like a fire in my mind」の「a」が削除されていた。
これは06年からの動きであり、「fire」が不可算名詞であるという判断を改めてしたためだと思われる。
02年よりシェーンがサポートメンバーに加わり、またアメリカを拠点に制作を行うようになったことから、英語のチェックは以前よりしやすい環境にいる効果が出ているのかもしれない。
16. juice
概要
00年発売のシングル曲。8ビートでリフを主体とした重厚なサウンドの楽曲である。
札幌でゲリラライブ方式で撮影されたMVは有名で、稲葉、松本ともに「良かった」MV撮影として挙げている。LIVE-GYMでの演奏回数が非常に多い楽曲。曲中にコール&レスポンスが入れられる曲の特性からだろうか。
稲葉さんの考え方
8ビートのハードロックナンバー。音域は、中音域がベース。
音域というよりも、楽曲の特性が如実に出ているため、歌い方もハードロックっぽく荒々しく、力強くなければならないだろう。
またライブで披露する際にはコールアンドレスポンスの組み立て方も考えなければならない。
実際の稲葉さんの歌い方
現在の歌い方を反映し歌い切っており、問題なく歌えていたと思われる。
コールアンドレスポンスでは太陽のKomachi AngelとNATIVE DANCEが採用された。(広島ではREDも)
NATIVE DANCEの時に、バリーとベースの絡みがあったのだが、私はここで少々ミスがあったことを記述しておきたい。
稲葉さんは、原曲キーから下げて、「mid2B」から”アイアイパート”を歌っていた。
カラオケで言うところの「-5」である。
しかしバリーは原曲キーのベースフレーズを弾いてしまっていた。これではフレーズが噛み合わない。結果的に、どこかオーディエンスの間で迷いのような空気が生まれていたのを、私は敏感に感じ取った。
いくつかの公演で稲葉さんがバリーにもっとフレーズをくれという旨を催促していた場面も見られ、実はここでの打ち合わせが綿密に行われていなかったのではないかと考えている。
(しかし公演を重ね最終的に修正はされた)
長期間における固定バンド編成と、既存の楽曲中心のライブということで、自由な裁量が設けられるセクションもあるだろう。ましてやコールアンドレスポンスは、アドリブで尺を決めているというから大変だ。ライブというものの難しさを感じさせられた場面だった。
コールアンドレスポンスの最後には、「Yeah」でhiF#までビブラートをかけながら伸ばすシャウトが行われた。これはLIVE DINOSAURの『FIREBALL』で見せたのと同じ種類のシャウトである。
裏声主体のため、実際の負担はほぼない。
17. BAD COMMUNICATION
概要
89年発売ミニアルバム『BAD COMMUNICATION』表題曲。
B’zは当初このミニアルバムがロングヒットを記録したことでスターダムにのし上がるきっかけを掴んだ。当時のユーロビートブーム、ひいてはディスコブームに乗り、ディスコに音源を大量配布したという。
B’zの現在に至るまでの方向性を打ち出すことに成功した画期的な楽曲で、
B’zを語るうえでは欠かせない楽曲であると言えるだろう。
稲葉さんの考え方
原曲と比較してロック調となったダンサブルな楽曲。
音域自体は原曲では(シャウトを除くと)hiC#が1か所出てくるだけで、実質mid2G#までで歌い切ることができるため問題ない。一方最後のシャウトはhiB♭に迫る。またULTRA Pleasureで再録された音源から間奏中にシャウトが追加された。
問題があるとすれば、曲の長さである。
というのも、一つは「ブレス」の問題。
もう一つは曲構成でリピートが多いため、聞き手を飽きさせないこと(メリハリをつけること)である。
実際の稲葉さんの歌い方
落ち着いた歌声で、負担を少なく歌い切れていた印象だ。
間奏中の「BAD BAD…」の箇所は「Hey Hey」という言葉に置き換えられていた。
1番サビでは「speak up」を歌わず、そのあとに恒例になりつつある「〇〇~!」などの掛け声を入れていた。
今回衝撃的だったのが、「BAD COMMUNICATION~」のフレーズの音程をアレンジしたことだ。「mid2G#~mid2G#~mid2G#~mid2F#~mid2D#~」という旋律となっていた。これは極めて珍しい出来事だといってよいだろう。楽曲のタイトル部分にアレンジを加えるというアプローチだからである。
そしてもちろん、これは当楽曲演奏史上初めてのフェイクであると思われる。
リリースから30年近くが経過しつつある楽曲のメインフレーズでフェイクを入れてくるとは、全くもって驚きであり、稲葉さんの挑戦心が窺える。(福岡公演あたりでは既に導入されていた)
ちなみに今後の展望だが、サビ頭の「hey hey」という箇所は、今後オーディエンスに任せることが増えるのではないだろうか?キーは低いがブレスはきついというのがこの楽曲の本質だと思っている。稲葉さんは今回「hey hey」を忠実に歌っている印象だった。
BAD COMMUNICATIONのメインフレーズをフェイクにしたということに加え、それをツアー中に導入し、改良を重ねて固定する。まさに稲葉浩志というヴォーカリストは職人である。
18. Pleasure 2018 -人生の快楽-
概要
91年発売シングル、『LADY NAVIGATION』のカップリング曲『Pleasure’91~人生の快楽~』以降、いくつものバージョンが演奏され、2番Aメロの歌詞がストーリー的に展開していくのが特徴の人気曲である。ベスト選曲ライブ”Pleasureツアー”の語源となっている。そのため93年以外(オープニングでフレーズのみ披露されていた)すべてのPleasureツアーで演奏されている楽曲である。
稲葉さんの考え方
キーは実はそこまで高くない。
リズムが重要な楽曲であるので、ドラムを意識して歌うと良いだろう。
2番サビとラスサビではhiBに抜けるシャウトをすることができる。
状況によっては選択していくのも良いだろう。
実際の稲葉さんの歌い方
現在の歌い方を反映し、重心を低く安定的に歌えていた。
2番サビやラスサビを高く終わらせるアレンジは、ほぼ見られなかった。
9/1以降の体調不良もあり、終盤の楽曲での余分なシャウトは控えていた印象である。
19. Brotherhood
概要
99年にリリースされたアルバム『Brotherhood』表題曲。
アルバム全体が「ロック」というテーマで制作されたため、当楽曲も打ち込み音が一切排除され生音である。
2011年、東日本大震災発生後のミュージックステーション出演時には、ニューシングル『さよなら傷だらけの日々よ』とともに『Brotherhood』が演奏された。
稲葉さんの考え方
サビに高音域で歌う箇所が存在しており、どちらかというと負担を強いられる楽曲。
LIVE-GYMにおいては、楽曲の最後には演奏を止めて「We’ll be alright」というフレーズを長く伸ばす演出が施されている。
今回は歌い出し、1番は2人のみの演奏。スタジアム公演ではアウトロの尺を大きく伸ばし、この楽曲の持つメッセージについて言及され、「We’ll be alright」のフレーズを会場全体で大合唱した。
実際の稲葉さんの歌い方
実は今回のツアー、稲葉さんは『Brotherhood』に大苦戦していた。
全楽曲の中で最も負担のかかった楽曲が『Brotherhood』であったと言えるのではないだろうか。
稲葉さんにしては珍しく、ドツボにはまっていった印象だ。
近年、hiA程度の音域なら軽くミドルで出すことが多い。
しかし稲葉さんは、Brotherhoodのサビ頭の「Brother」に、思い切り、がなりながら正面切って立ち向かっていたのである。そのため全体的には消耗しやすい結果となった。もう少しサビ頭に軽くぶつかるようなアプローチだったら、消耗を減らすことができたのではないだろうか?
しかし歌というのは繊細なもので、もちろん稲葉さんも体感はしていただろうから、避けられなかったのだろう。9/1以降は『Brotherhood』で飲む水の量が尋常ではないほどになっていた。
スタッフも含めて最重要警戒していた曲ではないだろうか。
実際千秋楽公演では、いつもにも増して苦労されていた模様だ。
近年の発声ギア比では、「you know what I mean」の「mean」はhiC#~hiEと上昇できない。
hiB~hiA~mid2F#~mid2Eと下がって処理するのが一般的だ。(無理に出したら裏返る可能性が高い)2011年からこのパターンに定着している。
衰えというよりは、発声スタイルの変化と見るのが良いだろう。
そして『Brotherhood』名物となっているラストのロングトーンだが、これも正直なところ苦しい。(そもそもサビの「We’ll be alright」も少々負担となっている)
近年はジャストな共鳴部分から少しずれたところでロングトーンを行わざるを得ない状況なので、少々金属的に聞こえる向きがあると考えている。しかし長さとキーは確保できているのだから驚きだ。稲葉さんの対応力、総合力の圧倒的強さを思い知らされる。
ここまで様々な御託を並べてしまったが、この楽曲の持つメッセージは重大である。B’zの魂の叫びである。その魂の叫びは、噓偽りのない本物であり、聴き、見る人々の琴線に触れる。このことは間違いないだろう。
20. ギリギリchop
概要
99年にリリースされたハードロックナンバー。
シャッフルの曲調に速弾きギターソロ、高音域のボーカルメロディと、演奏が非常に高難易度であることで大変有名である。
”タオル回し”の演出が伴い、また曲調も大変盛り上がるものであるため、近年ライブでかなり頻繁に演奏されている印象だ。
稲葉さんの考え方
最高キーが高い。ハードロックナンバーである。正面からぶつかると大きな消耗を受けることになるので、歌い方の工夫が必須である。
実際の稲葉さんの歌い方
世間一般では、「『ギリギリchop』を歌うこと」が非常に難関であり、困難であるような謳われ方をすることが多いが、特に08年を過ぎたあたりからは稲葉さんにとってはあまり負担ではなくなってきたはずだ。
理由は大きく二つある。(おそらく稲葉さんは理屈というよりも、体感で知っているだろう※「クロニクル」インタビューの際には、当楽曲よりも『イチブトゼンブ』の方が苦しく、なんでだろうという旨を語られていたため)
一つ目は、キーのバランス的に、現在の発声ギア比とかみ合っていること。
AメロBメロの低音部分はミドルボイス成分高めに少ないパワーで乗り切りつつ、サビのhiC(「崖の上を行くように」の「け」の部分など)をマイルドに発声している。このことにより、少ない力でサビ全体を歌い切ることが十分可能になる。最後の「すぐに潰れる」の部分も、2013年からはhiEでビブラートをかけるシャウト、それ以前はhiE~hiG~hiEというストレートで突き抜けるようなシャウトをすることが多かったが、少なくとも現在のシャウトはほぼ負担なく出すことができるはずだ。
そして二つ目は、歌い回しを工夫していること。
例えば「大丈夫」。原曲では「だいじょうおぶぅ~」と最後まで押していることがわかるが、
以後のアレンジでは「だいじょうお~(ぶ)」と「お」で押し、「ぶ」を添えるようにすることで、フレーズを短く歌いやすくすることをしている。まさに歌い回しの工夫なのである。
大きくこれらの要素によって、稲葉さんは現在『ギリギリchop』を楽に歌えている。
今後も「少ない負担で盛り上げられる楽曲」としてライブで登場する機会は多いのではないだろうか?
20. 愛のバクダン
概要
05年発売のシングル曲。簡単にコピーできる曲として制作され、一般のバンドにもコピーしてもらえるように初回限定盤にはTab譜と、4th beat、5th beatにカラオケ音源が収録されている。(5thはギターソロレスver.)
稲葉さんの考え方
明るくキャッチーな曲調であり、ロックサウンドであるためライブ終盤などで盛り上げやすい楽曲。
2番Bメロでは「〇〇のvoice」として地名を当てはめて地元を盛り上げることができる。
2013年より、主旋律に変化を加える試みを始めるようになった。
(2番Aメロなど)
また、2番頭を観客に歌わせるパフォーマンスも定着しつつある。
リリース直後のライブ以外、サビ途中の「Ah~」は歌わないように、
また08年あたりからは、「you can do it now」も歌わないようにして、
ブレスの確保に努めている。
アウトロにhiG#で裏声成分の多いシャウトを行うことがある。
実際の稲葉さんの歌い方
2012~3年あたりで確立した主旋律のアレンジを伴った歌い方で、歌い切っていた。
大きな変更点は見られない。
しかし一つ驚いたことがあった。9/21公演の最後、「jealousy」の部分をオクターブ下で歌ったのだ。3度などでフェイクするならまだしも、オクターブ下で対応するということ自体、稲葉さんにおいてはほとんどなかったことだ。
どれほど満身創痍でライブに当たられていたか、その状況や悲痛な思いを想像させられる次第である。
21. RUN
概要
92年発売アルバム『RUN』の表題曲。歌詞の内容がB’zの二人の関係性を彷彿とさせるものでもあり、特に近年においてはPleasureツアーの、特に終盤演奏されることが多い。
稲葉さんの考え方
この楽曲は、hiAまでしかメロディでは登場しない、高音域が少なく比較的中音域が多い楽曲である。そのため、全般を通してやわらかいミドルボイスを使って中音域を処理していきたい。
一方、Cメロやラスサビの終わりでシャウトをするアレンジをすることで感動的なパフォーマンスを見せることができる。
実際の稲葉さんの歌い方
ミドルボイスを十分使ってに使って全体を歌い通していた。
歌う時の姿勢は、走ることはなく、歩きながら直立して歌うイメージ。
おそらく今までの「RUN」の中で最も負担を少なくして歌いことができたと言えるだろう。
具体的に最も特徴的だと思われたのが、サビの「荒野を走れ」の「は」と「し」の発音。
今までは「は」を口を開けて発音していたが、今回の歌い方が反映され、「は」を開けずに
「荒野を(は)しれ」というイメージで、軽く歌い切るようにしていた印象だ。
この歌い方だと、かかる負担は格段に少なくなると思われる。
この楽曲はCメロ終わりやラスサビ終わりを高い音域で伸ばすことにトライしてきたが、
今回は9/1以降体調を崩してしまった。そのため9/1以降は極力高いフェイクは入れない傾向があった。また、大阪公演以降はラスサビの後に低い音程で「行こう、行こう」と2回ほど問いかけていた。
ちなみに演出面で言うと、アウトロに30年分のLIVE-GYM映像がまとめられたものが流れ、所定の位置に立つことで、89年の最初の映像とシンクロする演出が施された。
(豊田公演2日目ではメンバーが尺を間違えて失敗したこともあった。)
HINOTORIツアーでの稲葉さんの歌い方まとめ
HINOTORIツアーで演奏された楽曲それぞれでの稲葉さんの歌い方について徹底分析させていただきました。
ご覧いただきありがとうございました。
多少断言的な口調で記述している箇所もあり、大変恐縮です。
また稲葉さん本人にすべて事実確認が取れるわけではございませんので、主観が先行し、結果的に事実と相反する要素を記述しているかもしれません。その場合は、大変申し訳ございません。
あくまで個人的な考察としてお楽しみいただければ幸いです。
今回のツアーは、稲葉さんの体調不良が発生し、非常に稀有な、そして歴史的なツアーになったと言えるでしょう。
稲葉さんご自身も、いつもにも増して苦労されたに違いありません。
しかし、皆様ご存知の通り9/1福岡公演での稲葉さんのご発言もありました通り、
稲葉さんは最後まで挑戦し続けられました。そしてありのままのお姿を、私たちに見せ続けてくださいました。
これがどれほど勇気のいることであり、プロフェッショナルなことであるかは、到底筆舌尽くせません。
私は個人的に稲葉さんの歌い方が好きで、10年以上にわたって研究を続けています。
稲葉さんの真剣なお姿を見て、私も真剣に稲葉さんの歌い方に向き合ってみました。
まだ自身の知見は発展途上な部分がありますが、今後もさらに研究を続けていきたいと思います。
また3/13にDVDとBlu-rayが発売されますが、その時に改めて皆様が参加されたライブを思い出されることでしょう。
その時に、合わせてこの考察記事も楽しんでいただけたら大変嬉しいです。
それでは、大変長らくご覧いただき誠にありがとうございました。
執筆者@singingbird178
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